第149話

文字数 590文字

 男性と触れ合うことすら苦手だったまりあにとって、上茶谷との距離感はとても心地よい。

(

をしないのに、あそこまで寛いでいられるなんて、わたしの理想だよね………)

 上茶谷は女を愛せない人だ。それでも女性であるまりあを彼のキャパシティを最大限(マックス)にして、受け入れてくれているのがはっきりわかる。さらには友達以上だと言ってくれキスまでした。まりあは思わず唇に指をあてひとりで顔を赤らめてしまう。

 それでも上茶谷はまりあを占領しようとしたりしない。肉体的欲求もみせない。そこにあるのは寄り添うような優しい好意だけ。今までのまりあならそれで十分だと感じていただろう。トラウマの原因だったかもしれない父の浮気。お化けも正体がわかると怖くなくなるように、それに気づけたから男性への嫌悪感も落ち着いたのかもしれない。そう思ってみたもののまりあはすぐに首を振る。

(ううん。落ち着いたというのとはちょっと違うかな)

 ふたりの関係は恋人、さらには夫婦と比べたら、いつ壊れてしまうかわからない頼りないものだ。もっと深く確かな繋がりを上茶谷との間に求めてしまっている。それが今まで感じた事のない、体の内側にそっと灯った小さな欲と繋がっている。そのことにもまりあは戸惑っていた。

「いーたやさーん!」

 ぼぉっとそんな事を考えていたところに、いきなり声をかけられて、まりあは文字通りベンチから飛び上がってしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み