第32話
文字数 861文字
上茶谷はまじまじとまりあの顔を見つめ、うどん、と小さく呟いた。勢いでうどんに誘ってしまったけれど、夕食の内容は英語でいったらディナーじゃなく、サパー。海老天はついてはいるけれどただのうどんだ。人に積極的に振る舞おうとする夕食にしてはかなり質素だ。そう思ったら手のひらに汗をかんじたけれどもうあとには引けない。笑われるか、面倒くさい女だと呆れられるか。まりあはそう覚悟したけれど上茶谷の反応は違うものだった。彼は優しい穏やかな表情で微笑んだのだ。
「……ありがとう。でも今、お腹すいていないから大丈夫。お昼を食べたの、遅かったしね」
そう言って静かに視線を落とした上茶谷をみてまりあは確信した。彼はまりあが心配していることをちゃんと理解してくれている。そしてこれは不確かだけれど、上茶谷は身体よりも心が疲れているのかもしれないと。彼はこのまま何も食べずに寝てしまうのだろうか。それならなおさら、あのお出汁がきいた温かいうどんを食べて寝たほうがいい。胃が空っぽで身体が冷えたままだと、心も更に冷えてしまう。それはまりあは社会人になって一人暮らしを始めてから実感したことだ。こんなことを言ったら迷惑じゃないかとか、そんなことを考える前に口が勝手に動いていた。
「これからうどん作ったら出来上がるのは八時ですから。その頃にはお腹すきますよ。疲れている時にうどんは消化がよくて食べやすいですし。あ、無駄にお喋りしてカミ、カミチャタニさんを引き止めませんから安心してください。とにかく食べてってください! 美味しいですよ! えーとたぶん、ですけど。アレルギーとかあります? 小麦粉とかエビとか」
強引なうどん屋の呼び込みみたいだと思いながらも、まりあの口は止まらない。その勢いに驚いたように一瞬ポカンとしたものの、上茶谷は苦笑しながら首を振る。
「ありがたいけどね。正直今は、あなたの部屋に入る入らない論争する気力もないのよ。だから今日は……」
「ストップ!」
まりあは荷物が連なっている腕をグイッと力強くもちあげて、上茶谷の言葉を制した。
「……ありがとう。でも今、お腹すいていないから大丈夫。お昼を食べたの、遅かったしね」
そう言って静かに視線を落とした上茶谷をみてまりあは確信した。彼はまりあが心配していることをちゃんと理解してくれている。そしてこれは不確かだけれど、上茶谷は身体よりも心が疲れているのかもしれないと。彼はこのまま何も食べずに寝てしまうのだろうか。それならなおさら、あのお出汁がきいた温かいうどんを食べて寝たほうがいい。胃が空っぽで身体が冷えたままだと、心も更に冷えてしまう。それはまりあは社会人になって一人暮らしを始めてから実感したことだ。こんなことを言ったら迷惑じゃないかとか、そんなことを考える前に口が勝手に動いていた。
「これからうどん作ったら出来上がるのは八時ですから。その頃にはお腹すきますよ。疲れている時にうどんは消化がよくて食べやすいですし。あ、無駄にお喋りしてカミ、カミチャタニさんを引き止めませんから安心してください。とにかく食べてってください! 美味しいですよ! えーとたぶん、ですけど。アレルギーとかあります? 小麦粉とかエビとか」
強引なうどん屋の呼び込みみたいだと思いながらも、まりあの口は止まらない。その勢いに驚いたように一瞬ポカンとしたものの、上茶谷は苦笑しながら首を振る。
「ありがたいけどね。正直今は、あなたの部屋に入る入らない論争する気力もないのよ。だから今日は……」
「ストップ!」
まりあは荷物が連なっている腕をグイッと力強くもちあげて、上茶谷の言葉を制した。