第２２２話

　絞り出すようにそう話す上茶谷をまりあはただただ見つめる。頬は白く冷静に話しているように見えるのに、その声はまりあの鼓膜を切なく揺らした。三人の間に沈黙が落ちる。微かに身じろぎする音のあと、言葉を発したのは坂口だった。

「……ほぼ思っていた通りでしたけど、実際聞くと痺れますね」

　坂口がぼそりとそう呟いてから、すぐにまた口を開く。

「ひとつ思いついたアイデアがあるんですけど。提案してもいいですか？」
　
　まりあは坂口の横顔をみつめる。少し硬いその表情はまるで営業をしている時のように真剣に見えた。皆の沈黙を肯定と捉えた坂口はゆっくりと口を開く。

「三人でルームシェアをしませんか？」

「ルームシェア？！」

　まりあと上茶谷が同時に声をあげた。

「上茶谷さんはもう引っ越し先の部屋を契約しちゃったんですよね。そうなると契約解除料が発生する可能性があるかと思いますけど、それは提案者である俺が責任をもって負担します。上茶谷さんの引っ越し先ってどこです？」

「……豊洲だけど」

「豊洲なら俺とまりあさんの職場からも近いっすね」

　坂口はスマホをポポポと人差し指でタップしてしばらく何かをチェックすると、直ぐに顔をあげた。

「ルームシェア可で駅チカ、広さは3LDKくらいの物件を至急ピックアップします。上茶谷さんはもう、この部屋は出なくちゃいけないですもんね」

　坂口がそこまでいうと三人の間にまた小さな沈黙が落ちた。その静けさを破ったのは上茶谷の小さな笑い声だった。

「坂口さん、あなたってやっぱり面白いひとね」