第１８４話

　言葉を選びながら上茶谷はそう呟いてコーヒーを飲む。いつもよりもざらりとした苦味が舌に広がったような気がして、その感覚に上茶谷は軽く眉を寄せてしまう。

「大悟がそういうなら、そうなんだろうね。俺としてもまりあちゃんと離れてくれたほうがいいし、そういうスタンスは歓迎」

　上島はごくさり気ない調子でそう言って、にこりと笑うと、カップを持ち上げて一気に飲み干した。それからごちそうさんと言って立ち上がった。

「仕方ない。そろそろ帰ろうかな」

　その言葉に、上茶谷が笑う。

「あら。意外とあっさり帰るのね」

　上島は、片方の眉をあげニヤリと笑った。

「あれ、もしかして泊まっていって欲しかった？」

　上茶谷も苦笑しながら首を振る。

「まさか。どうしても泊まるっていうなら、そこの廊下で寝てもらうから。夏だから風邪もひかないし、むしろ床がひんやり涼しくていいわよ」

　上茶谷の言葉に上島は大袈裟に肩を竦めてみせた。

「ひどいな。相変わらず俺の扱いが雑すぎる。ペット以下でしょ、それ」

　その言葉に上茶谷もつい笑ってしまったのを見て上島が目を細めた。

「ようやくちゃんと笑った。どちらにしても今、大悟に触ったらパリンって割れてしまいそうで怖くて触れられないし。おとなしく帰るよ」

「え？」

　上島の言葉に上茶谷が顔を上げると、彼はふっと口元を緩めて、軽く首を振る。