第72話

文字数 716文字

 そうして朝になり現在に至る。まりあは添い寝だけでこれだけ気持ちいいことに衝撃を受けていた。添い寝以上のことをしても今まで知らなかっためくるめく世界を見てしまうかもしれないのだろうか。ふとそのイメージが頭の中で瞬きそうになったから、いやいやそうではなくて! と自分自身にツッコミをいれる。そもそも上茶谷はまりあを

としてみていないしまりあだってそうだった。じゃあ一体何がキモチよかったのか。

(ダイゴさんが美形だから? うーん。でも見るだけならともかくこの肌感覚的なものは別物だよね)

 抱きしめられている上茶谷の腕におでこを押し付けながら考える。このさらさらしているのに温かい感じも肌の香りもやっぱり好きだと思う。

(……もしかして。ダイゴさんのことが好きになってしまったから? 最初から好きだったけど、もっともっと深い意味の…? 今までの彼氏にないくらいの勢いで?)

 それが正解だと頷く感情に理性が一斉否定にまわる。女性を愛せない人を本気で好きになるバカがどこにいる? そんな報われない恋を三十一になってしてていいものなのか。途方にくれたまりあは視線をまわりに泳がせる。

「何考えてるの?」

 不意に上茶谷にそう問われてビクリと身体を震わせ顔をあげる。説明できるわけもなくて口をパクパクさせていると、上茶谷はゆっくりと身体を起こしてまりあに覆い被さるようにして顔を近づけた。上茶谷が両腕をベッドについて作った小さな空間。そこに閉じ込められたまりあは、肉食動物に穴ぐらを覗かれた小動物(えもの)のように完全にフリーズした。間近にある唇が色っぽい形にほほえみを作るのをぼんやり見つめることしかできない。

「当ててあげましょうか?  まりあさん」
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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