第133話
文字数 728文字
笑みを浮かべたまま言おうとするけれど、忘れていたはずのあのときの衝撃、世界が崩れてしまうような怖さが蘇ってきてしまいやっぱり唇を軽く噛んでしまう。
「それなりに仲が良かった両親の空気が一気に冷えていくのを肌で感じました。あの頃は浮気とかよく分からなかったけれど、電話で湿った声をだしていたあの女の人が原因で、父と母の仲が悪くなっているのは朧気ながらわかりました。ショックというか……とにかくすごく混乱してたんですね。今思うと。時々あの女の人の声が耳の奥で響いて鳥肌がたったりしちゃって。わたしもなんだか父が汚いもののように感じて、その頃から父と距離をとるようになったのかもしれません」
そこでようやく、まりあは顔をあげてにこりと笑ってみせる。
「でもなんだかんだありながらも両親は離婚はしませんでした。妹も独立したから今も両親は二人で住んでいるんですよ。過ごす部屋は別々にしていて、お互い好き勝手にやる同居人みたいになっていますけどね。だから全然たいしたことじゃないです、ホントに」
まりあがそこまで言ったとき上茶谷がスッと身体を起こした。
「たいしたことないってことはないでしょう」
上茶谷は真面目な表情で小さく首を振った。
「小さなまりあにとってその事が衝撃的な出来事だったのはよくわかるわ。話している時のまりあ、怯えた子供みたいな顔をしていた」
「でもわたし、ずっとこの事を忘れてて……」
まりあも起き上がって上茶谷を見つめると、彼は優しくそれでもぎゅっと体温が伝わるくらいに、まりあを抱きしめた。
「無意識のうちに忘れようとしたのよ、きっと。嫌な思い出は特に。誰でもそうよ」
耳元で優しく囁く声はまるで子守唄のようで、まりあはうっとりと彼の言葉に耳を傾ける。
「それなりに仲が良かった両親の空気が一気に冷えていくのを肌で感じました。あの頃は浮気とかよく分からなかったけれど、電話で湿った声をだしていたあの女の人が原因で、父と母の仲が悪くなっているのは朧気ながらわかりました。ショックというか……とにかくすごく混乱してたんですね。今思うと。時々あの女の人の声が耳の奥で響いて鳥肌がたったりしちゃって。わたしもなんだか父が汚いもののように感じて、その頃から父と距離をとるようになったのかもしれません」
そこでようやく、まりあは顔をあげてにこりと笑ってみせる。
「でもなんだかんだありながらも両親は離婚はしませんでした。妹も独立したから今も両親は二人で住んでいるんですよ。過ごす部屋は別々にしていて、お互い好き勝手にやる同居人みたいになっていますけどね。だから全然たいしたことじゃないです、ホントに」
まりあがそこまで言ったとき上茶谷がスッと身体を起こした。
「たいしたことないってことはないでしょう」
上茶谷は真面目な表情で小さく首を振った。
「小さなまりあにとってその事が衝撃的な出来事だったのはよくわかるわ。話している時のまりあ、怯えた子供みたいな顔をしていた」
「でもわたし、ずっとこの事を忘れてて……」
まりあも起き上がって上茶谷を見つめると、彼は優しくそれでもぎゅっと体温が伝わるくらいに、まりあを抱きしめた。
「無意識のうちに忘れようとしたのよ、きっと。嫌な思い出は特に。誰でもそうよ」
耳元で優しく囁く声はまるで子守唄のようで、まりあはうっとりと彼の言葉に耳を傾ける。