第176話
文字数 571文字
自分が発した必死な声が頭に響いて涙が出そうになってしまい、まりあは俯く。まるで駄々をこねている子供みたいだ。その場から逃げ出したくなってしまうくらい恥ずかしい。けれど上茶谷がどんどん遠くにいってしまう怖さのほうが、恥ずかしさよりも圧倒的にまさっていた。顔なんかとてもみていられないから、俯いたまま、彼の手首を掴む。
「行かないで……ください」
掠れた小さな声。それに反応した上茶谷の指先が、ほんの少しだけ震えた。その振動が掴んだ手首からまりあの手のひらに伝わってきて、心まで揺らす。上茶谷の見た目は中性的で線が細い。けれど掴んだ手首はまりあよりしっかりしていて、骨ばっていた。それが余計、まりあを切なくさせる。
夏特有の湿った夜風が、ふわりと二人の間に流れていったその時だった。沈黙を破ったのはアパートの階段をのぼって来る、足音だった。
「あ、まりあちゃんだ。久しぶり」
背後から聞こえてきた声に慌てて上茶谷から手を離して、まりあはふりかえった。そこにはコットンパンツにTシャツというラフな格好をした上島が立っていた。
「こんな夜中に廊下でおしゃべりですか。相変わらず二人は仲が良いね」
上島がからかうようにそう言って近づいてきたけれど、その場のどこか緊張した空気にすぐに気づいたようで小さく吐息をついた。
「大悟、まりあちゃんにあの話をしたの?」
「行かないで……ください」
掠れた小さな声。それに反応した上茶谷の指先が、ほんの少しだけ震えた。その振動が掴んだ手首からまりあの手のひらに伝わってきて、心まで揺らす。上茶谷の見た目は中性的で線が細い。けれど掴んだ手首はまりあよりしっかりしていて、骨ばっていた。それが余計、まりあを切なくさせる。
夏特有の湿った夜風が、ふわりと二人の間に流れていったその時だった。沈黙を破ったのはアパートの階段をのぼって来る、足音だった。
「あ、まりあちゃんだ。久しぶり」
背後から聞こえてきた声に慌てて上茶谷から手を離して、まりあはふりかえった。そこにはコットンパンツにTシャツというラフな格好をした上島が立っていた。
「こんな夜中に廊下でおしゃべりですか。相変わらず二人は仲が良いね」
上島がからかうようにそう言って近づいてきたけれど、その場のどこか緊張した空気にすぐに気づいたようで小さく吐息をついた。
「大悟、まりあちゃんにあの話をしたの?」