第201話

文字数 775文字

「まりあちゃん、肝が据わってるね」

(肝が据わっているというより、頑張って据わらせてるだけだけど)

 まりあは心のなかで文句を言う。それでも呼吸を整え、ごく普通の口調に聞こえるように気をつけながら反論を試みる。

「上島さんの言っていること……おかしいと思います。ダイゴさんと上島さんは

付き合っているんですよね? ハニトラを仕掛ける意味がわかりません。 わたしの存在なんてお二人にとって関係ないじゃないですか」

 まりあの言葉に上島はすっと瞳を細めた。

「まりあちゃん」

「はい」

「俺たちが

付き合っていたことは大悟から聞いた?」

「聞きました」

 別れたはずなのに急に来られても困る。戸惑いと切なさを秘めたような瞳でそう言って、どこかさみしげに微笑んでいた上茶谷を思い出す。

「別れた理由も聞いた?」

 さり気ない口調だが彼の視線はまりあの内面まで見通すようだ。まりあは思う。多少の小細工をしたところで心理戦に長けているだろう上島ならすぐにわかってしまうはずだ。だから簡潔かつ正直に答える。

「その話をしていた時のダイゴさん、辛そうでしたから。深くは聞けませんでした」

 上島の表情がほんの少しだけ翳ったように見えた。けれどすぐに何事も無かったように微笑む。

「そっか。そうだな」

 そこで上島は運ばれてきたニ杯目のグラスを傾けて半分くらいまでごくごく飲む。それをとん、と小さな音をたててテーブルに置いてゆっくり口を開いた。

「ひと言でいうとね。俺が裏切ったの。心の底から俺を信じてくれていた大悟をね」

 じっと見つめてくるまりあに向かって上島は自嘲するような笑みを浮かべてみせた。

「だからそう簡単にヨリなんて戻せない。大悟はまだ完全には俺を赦していないからね」

 上島と上茶谷は復縁したわけではなかった。あっさりその事も種明かしをしてきた上島に驚いて、まりあは瞳を見開いた。

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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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