第236話

文字数 627文字

 坂口はあえてなのか、さらりとそういって皿の上にあったチーズを摘まんで口の中に放りこんだ。

「上茶谷さん前に言っていたじゃないですか。女性は愛せないって。まりあさんは女性ですよ」

 手元をみたままそう呟いた坂口に、上茶谷も静かな声で答える。

「……そうね。それでもまりあを欲しがるなんて、お互いを不幸にするだけじゃないかと思っていたわ。だけど」

 坂口が顔をあげて上茶谷を見つめた。

「一緒に住んでみて思ったの。不幸になるかどうかなんてやってみないとわからない。それは普通(ノーマル)のカップルでも一緒でしょう。まあ、そんな理屈よりも」

 上茶谷は苦笑しながら頷いて肩をすくめてみせる。一緒にいて幸せになれない理由を探すよりも、幸せになる方法を探すべきじゃないのか。そう思うようになったこともある。けれどもっと単純で、切実な感情。

「あなたとまりあの距離がどんどん近くなっていくのをまじかで見せられて、なんだか腹がたったのよ」

 凛とした佇まいを崩さずあっさりそんな事を言う上茶谷を見て、坂口は虚を突かれたように動きをとめた。それから数秒後、笑いだした。

「……上茶谷さんが、女性にも男性にもモテる理由がよくわかりましたよ」

「いきなりなにそれ」

 急にそんな事を言い出した坂口を今度は上茶谷がじいっと見つめたけれど、彼は気にする様子もなく言った。

「いや、普段は澄ましてクールな美形なくせに、内側は静かに熱い。そのギャップが妙にそそられるんで。そういうのって性別を超えてクルんだなって」

 
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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