第4話
文字数 939文字
直径十八センチ、六号サイズのケーキには、これでもかと旬のフルーツがギッシリ並べてある。
「一人で祝う誕生日ケーキとしては過去最大の贅沢だよね」
広くない部屋に響く独り言は、ケーキの華やかさを相殺してしまう気がしてテレビをつけた。画面には最近人気があるお笑いコンビが映っている。そのツッコミ担当の喋り方が会社の後輩、坂口に少し似ているなとまりあはぼんやり画面を見つめて思う。
坂口の見た目は癒やし系にも関わらず、口を開くと結構辛口。だから彼と話すときはいつも防御及び反撃のために身構えている。今日も給湯室でばったり会ったら、誕生日にひとりでケーキ?! 孤独のグルメってやつですか! と大きな声でツッコミをいれられた。黙っていれば可愛いのに、言うことはとにかくかわいくない。
悪い? といってまりあとしては精一杯睨んでみたけれど、百五十五センチしかないまりあが見上げても、迫力が全く足りない。彼はまりあを見下ろしてニヤリと笑うと、じゃあ俺が孤独のケーキに付き合いましょうか? ってからかってきたから、間に合ってます! と強がって給湯室から退散した。
年下男子の言うことをイチイチ真に受けていたら、痛い目にあうのを正人から学んだのだ。
まりあはブンブンと首を振って意識を変える。
「ハッピーバースデー、三十一歳のわたし」
とりあえずそっと口ずさんでみたら、さんじゅういち、という単語が小骨みたいに、喉の奥あたりで引っかかった。
「みんな平等に時間は流れていくのよ。二十五歳の女のコにも」
そんなことを無意識に口走った自分に、まりあは顔をしかめてしまう。別れた後に正人が付き合いだしたとかいう二十五歳女子のことを、どこかで意識していたのかもしれない。普段はそれほど気にしていないのに。
「やめやめ! ケーキ食べよ」
まりあは今度こそと気を取り直すようにフォークをギュッと握った。ホールケーキ一台、一気に食べるから今日の夕食はなしだ。横には赤ワインをついだエルメスのワイングラス。出番がなかなかないものの捨てられない友達の結婚式で貰った引き出物はこんな時役に立つ。準備は万端だ。
辛気臭い雰囲気を蹴散らすべく、ケーキのど真ん中にフォークを景気良く刺して食べてやろうと、腕を振り上げたその瞬間だった。
「一人で祝う誕生日ケーキとしては過去最大の贅沢だよね」
広くない部屋に響く独り言は、ケーキの華やかさを相殺してしまう気がしてテレビをつけた。画面には最近人気があるお笑いコンビが映っている。そのツッコミ担当の喋り方が会社の後輩、坂口に少し似ているなとまりあはぼんやり画面を見つめて思う。
坂口の見た目は癒やし系にも関わらず、口を開くと結構辛口。だから彼と話すときはいつも防御及び反撃のために身構えている。今日も給湯室でばったり会ったら、誕生日にひとりでケーキ?! 孤独のグルメってやつですか! と大きな声でツッコミをいれられた。黙っていれば可愛いのに、言うことはとにかくかわいくない。
悪い? といってまりあとしては精一杯睨んでみたけれど、百五十五センチしかないまりあが見上げても、迫力が全く足りない。彼はまりあを見下ろしてニヤリと笑うと、じゃあ俺が孤独のケーキに付き合いましょうか? ってからかってきたから、間に合ってます! と強がって給湯室から退散した。
年下男子の言うことをイチイチ真に受けていたら、痛い目にあうのを正人から学んだのだ。
まりあはブンブンと首を振って意識を変える。
「ハッピーバースデー、三十一歳のわたし」
とりあえずそっと口ずさんでみたら、さんじゅういち、という単語が小骨みたいに、喉の奥あたりで引っかかった。
「みんな平等に時間は流れていくのよ。二十五歳の女のコにも」
そんなことを無意識に口走った自分に、まりあは顔をしかめてしまう。別れた後に正人が付き合いだしたとかいう二十五歳女子のことを、どこかで意識していたのかもしれない。普段はそれほど気にしていないのに。
「やめやめ! ケーキ食べよ」
まりあは今度こそと気を取り直すようにフォークをギュッと握った。ホールケーキ一台、一気に食べるから今日の夕食はなしだ。横には赤ワインをついだエルメスのワイングラス。出番がなかなかないものの捨てられない友達の結婚式で貰った引き出物はこんな時役に立つ。準備は万端だ。
辛気臭い雰囲気を蹴散らすべく、ケーキのど真ん中にフォークを景気良く刺して食べてやろうと、腕を振り上げたその瞬間だった。