第120話
文字数 598文字
上茶谷がまりあのことが好きなのは間違いない。けれどそれが恋愛感情なのかと問われると、彼は答えが出せないでいる。男から感じる、ギザギザに尖ったひりつくような強い引力ではない。まりあから感じるのはお日様に干したばかりの布団に包まれるような心地良さ、気持ちよさ。それは家族に感じる愛情とどこか似ているのかもしれない。だから彼女を誰かに奪われるとなると可愛がっている妹を取られてしまうような微かな苛立ちを感じるのだ。
上茶谷はそう思おうとするけれどその説明がぴたりとハマッている感じもしない。まりあの泣きそうな顔を思い出すと、反射的にわきあがる疼くような小さなこの痛みはどう説明したらいいのだろう。坂口と一緒にいるところを見たときのあの息苦しい感覚は?
まりあの髪型を変えようと思ったのは、彼女の良さをもっと引き出したいという思いからだった。けれどもしかしたら。途中から坂口へのメッセージも混ざったかもしれない。あの男がどれほどまりあのことをわかっているのか。自分のほうがわかっているのではないか、と。
(私だってよくわかっていないくせにね)
上茶谷は小さく首をふって苦笑する。駅をでて慣れたアパートへの道のりを歩き出す。まりあのいる場所に近づいてくると、先程見た泣きべそをかいたような表情 が脳裏に余計ちらついてしまう。このままにしておくのはよくない。ちゃんとまりあを目の前にして、話をしなければと思う。
上茶谷はそう思おうとするけれどその説明がぴたりとハマッている感じもしない。まりあの泣きそうな顔を思い出すと、反射的にわきあがる疼くような小さなこの痛みはどう説明したらいいのだろう。坂口と一緒にいるところを見たときのあの息苦しい感覚は?
まりあの髪型を変えようと思ったのは、彼女の良さをもっと引き出したいという思いからだった。けれどもしかしたら。途中から坂口へのメッセージも混ざったかもしれない。あの男がどれほどまりあのことをわかっているのか。自分のほうがわかっているのではないか、と。
(私だってよくわかっていないくせにね)
上茶谷は小さく首をふって苦笑する。駅をでて慣れたアパートへの道のりを歩き出す。まりあのいる場所に近づいてくると、先程見た泣きべそをかいたような