第210話
文字数 762文字
「一緒に住むって……いきなりどうしたの?」
上茶谷の声は驚いているものの、その響きにまりあを責めたり拒否するようなものはない。彼女と話をしていると、どうしたって心の奥にあるものが緩んでしまうのだ。その声に安心したように、まりあは上茶谷の手首は掴んだまま顔を上げた。
「……ダイゴさんと離れないようにするにはどうすればいいかなって考えて……。それなら一緒に引越しするしかないなって思ったんです」
強い意思を感じさせる瞳。上茶谷はどこか腑に落ちない。まりあは上島と上茶谷がまた付き合い始めたと勘違いをしていたはずだ。それがいきなり一緒に住もうというのは、いくらまりあといえど唐突すぎる。彼女は時々突拍子もないことを言ったりしたりするけれど、基本常識をわきまえた大人であることを上茶谷はよくわかっていた。
「……蒼佑も一緒にいるって思わなかった?」
彼女の反応を探るために、あえて感情のこもらない声でそうたずねてみると、予想どおりまりあは戸惑い口ごもった。そのくせ掴んでいる手首は離さない。彼の口元はため息をつきながらも笑みがこぼれてしまう。どうしたって彼女を無碍 に扱うことなど彼にはできない。
「立ち話じゃ落ち着かないし、とりあえず私の部屋にくる? 引越し前で散らかっているけど。じっくり聞かないと話がよくわからないわ」
上茶谷がそう提案すると彼女はおずおずと顔をあげて彼の顔をみつめた。
「ダイゴさん疲れてますよね。すいません、なんか無理させてしまって……」
「多少疲れてはいるけど。無理なんかしていないから大丈夫」
上茶谷は苦笑して首を振る。まりあと話をしていると、無理どころかいつのまにか心がほぐれて楽になっているから。喉元まで出そうになったその言葉はあえて飲み込む。代わりに掴まれた手で逆に軽く握りかえして部屋に入るよう促した。
上茶谷の声は驚いているものの、その響きにまりあを責めたり拒否するようなものはない。彼女と話をしていると、どうしたって心の奥にあるものが緩んでしまうのだ。その声に安心したように、まりあは上茶谷の手首は掴んだまま顔を上げた。
「……ダイゴさんと離れないようにするにはどうすればいいかなって考えて……。それなら一緒に引越しするしかないなって思ったんです」
強い意思を感じさせる瞳。上茶谷はどこか腑に落ちない。まりあは上島と上茶谷がまた付き合い始めたと勘違いをしていたはずだ。それがいきなり一緒に住もうというのは、いくらまりあといえど唐突すぎる。彼女は時々突拍子もないことを言ったりしたりするけれど、基本常識をわきまえた大人であることを上茶谷はよくわかっていた。
「……蒼佑も一緒にいるって思わなかった?」
彼女の反応を探るために、あえて感情のこもらない声でそうたずねてみると、予想どおりまりあは戸惑い口ごもった。そのくせ掴んでいる手首は離さない。彼の口元はため息をつきながらも笑みがこぼれてしまう。どうしたって彼女を
「立ち話じゃ落ち着かないし、とりあえず私の部屋にくる? 引越し前で散らかっているけど。じっくり聞かないと話がよくわからないわ」
上茶谷がそう提案すると彼女はおずおずと顔をあげて彼の顔をみつめた。
「ダイゴさん疲れてますよね。すいません、なんか無理させてしまって……」
「多少疲れてはいるけど。無理なんかしていないから大丈夫」
上茶谷は苦笑して首を振る。まりあと話をしていると、無理どころかいつのまにか心がほぐれて楽になっているから。喉元まで出そうになったその言葉はあえて飲み込む。代わりに掴まれた手で逆に軽く握りかえして部屋に入るよう促した。