第132話
文字数 773文字
「わたしが小学校の三年だったから九つくらいかな。夕方、母親がパートから帰ってくるちょっと前だったんですけど家の電話が鳴って。わたししか家にいなかったから電話に出たんです」
上茶谷は何も言わずまりあの髪の毛を静かに撫で続けている。
「電話に出たら知らない女の人の声で康彦さんの奥さんいますかっていうんです。あ、康彦っていうのはうちの父の名前です」
まりあが小さく口をすぼめて真面目な顔でいうから上茶谷も小さく微笑んで続きを促す。
「母はまだ帰ってきてませんって、答えたんですけど、子供ながらになにか違和感があったんですよね。普通板野さんいらっしゃいますか? とかお父さんはご在宅ですか? っていうのに康彦さんなんて名前をいうのおかしいじゃないですか。そうしていたらちょうど、というかタイミング悪く母が帰ってきちゃって。電話、替わりますよね。そうしたら母の顔色変わったんです。無表情になった後、今度は般若みたいな顔になっちゃって。なにか低い声で二言三言話して、がちゃって電話切って」
まりあが泣き笑いしているような笑みを浮かべ上茶谷を見上げた。
「その時はよくわかなかったけど、あれは父の浮気相手だったみたいなんです。わたしと妹がベッドに入って暫らくした後、父と母が言い争う声がしてなにかが割れる音がしました。耳を塞いでむりやり寝たのを覚えてます」
上茶谷は包み込むような瞳で見つめているから。まりあも安心して言葉を続ける。
「その日から母の父への態度が変わったんです。母は父に近寄らなくなって、父が母に触れようとするとあからさまに避けていました。それでも子供の前では家族団らんの雰囲気を壊さないようにって母も笑うんですけど、目が笑ってなくて。そういうの子供はわかっちゃうんですよね。だからわたしもわざとふざけた事を言ったりして。たいていスベってましたけど」
上茶谷は何も言わずまりあの髪の毛を静かに撫で続けている。
「電話に出たら知らない女の人の声で康彦さんの奥さんいますかっていうんです。あ、康彦っていうのはうちの父の名前です」
まりあが小さく口をすぼめて真面目な顔でいうから上茶谷も小さく微笑んで続きを促す。
「母はまだ帰ってきてませんって、答えたんですけど、子供ながらになにか違和感があったんですよね。普通板野さんいらっしゃいますか? とかお父さんはご在宅ですか? っていうのに康彦さんなんて名前をいうのおかしいじゃないですか。そうしていたらちょうど、というかタイミング悪く母が帰ってきちゃって。電話、替わりますよね。そうしたら母の顔色変わったんです。無表情になった後、今度は般若みたいな顔になっちゃって。なにか低い声で二言三言話して、がちゃって電話切って」
まりあが泣き笑いしているような笑みを浮かべ上茶谷を見上げた。
「その時はよくわかなかったけど、あれは父の浮気相手だったみたいなんです。わたしと妹がベッドに入って暫らくした後、父と母が言い争う声がしてなにかが割れる音がしました。耳を塞いでむりやり寝たのを覚えてます」
上茶谷は包み込むような瞳で見つめているから。まりあも安心して言葉を続ける。
「その日から母の父への態度が変わったんです。母は父に近寄らなくなって、父が母に触れようとするとあからさまに避けていました。それでも子供の前では家族団らんの雰囲気を壊さないようにって母も笑うんですけど、目が笑ってなくて。そういうの子供はわかっちゃうんですよね。だからわたしもわざとふざけた事を言ったりして。たいていスベってましたけど」