第115話

文字数 662文字

 今まで美容院でカットやパーマをしてこんなに印象が変わったことはなかった。それは上茶谷のもつ技術は勿論のこと、彼が本当にまりあをよく見て、どうすれば似合う髪型になるか本気で考えてくれたからだ。

 彼はきっと、どんな客に対しても真摯に向き合い似合う髪型にするだろう。それはまりあもわかっている。でもそれ以上の何か。言葉にしなくても伝わってくるもの。上茶谷から感じる温かくて優しい、それでいてせつない何かがまりあの髪型を形作っている。そう感じた。

「時間があったらメイクもしてあげたいけど。今日はムリだわ。だからそれはまた今度。あ、坂口くんとデートの前にでもしてあげる」

 そう言って微笑んだ上茶谷を見たその時、さきほどリカコが言った言葉が、まりあの中をよぎった。

『彼、本音はなかなか言わないのよ』

 上茶谷の本音が知りたい。たとえその本音がどんなものであっても。そうしたらきっと、心を覆うもやもやした霧が晴れて、自分の立ち位置がわかるかもしれない。そうしなければ先に進めない。まりあは思う。

(どうやったら本音が聞ける……?)

 そう考えた瞬間、閃いた。

距離なら聞けるかもしれない。まりあは意を決して上茶谷を見る。

「ダイゴさん」

 上茶谷はまりあの真剣な表情に、驚いたように瞳を見開いた。

「どうしたの?」

 緊張で首の後ろのあたりが、じん、と痺れるのを感じた。こんなことを急に言ったら引かれてしまうかもしれない。ごくりとまりあは息を飲む。それから鏡越しに見つめてくる上茶谷に、思い切ってたずねた。

「私とまた、添い寝をしてもらえませんか?」
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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