第157話
文字数 734文字
坂口はあえてなのか淡々とそういって、まりあを見つめた。相変わらず坂口はせっかちだ。合理主義者で頭の回転も早い。それでいて憎めない愛嬌もある。これならK工業の部長も陥落するだろうとまりあは苦笑する。
「困ったな。なんて言えばいいんだろう」
そういうまりあをじっと見ていた坂口がゆっくりと口を開いた。
「板野さん」
「うん?」
「まさかと思いますが……言いにくいかもしれないのでズバリ聞きますね」
真面目な顔でそう問われてまりあはどきりとする。坂口は硬い表情のまま口を開いた。
「俺のこと生理的に無理だったりします? これはもう仕方のないことなので遠慮なく言ってください」
まりあは手に持っていた箸をポロリとテーブルの上に落としてしまった。それからつい笑ってしまう。
「そんなことあるわけないでしょう。そこまで嫌いなひとと一対一 で飲みにくるわけないよ」
「よかった」
そういって安心したように瞳を緩めて微笑んだ坂口をみてまりあは思う。嫌いどころか一緒にいて楽しいし好きだと思う。但し、それは上茶谷に感じる好きと少し違う。坂口への感情はくっきりとした輪郭があって、手にもったり眺めたりすることができる感じに似ている。一方上茶谷へのものは、空気みたいに透明で身体にするりと沁みこみ、さらには内側で勝手にふくらんでいく感覚。コントロールできない種類のものなのだ。まりあはどう説明しようかとしばらく考えたあとゆっくり口を開いた。
「……坂口くんのこと全然嫌いじゃない。むしろ好きか嫌いかって言われたら好きだと思う。でも……」
坂口はすっと瞳を細め、首を傾げた。
「でも?」
まりあはふうとひとつ、息を吐いてから言葉もゆっくりと外へ押し出した。
「……それとは違う種類の好きを感じてしまう人がいるの」
「困ったな。なんて言えばいいんだろう」
そういうまりあをじっと見ていた坂口がゆっくりと口を開いた。
「板野さん」
「うん?」
「まさかと思いますが……言いにくいかもしれないのでズバリ聞きますね」
真面目な顔でそう問われてまりあはどきりとする。坂口は硬い表情のまま口を開いた。
「俺のこと生理的に無理だったりします? これはもう仕方のないことなので遠慮なく言ってください」
まりあは手に持っていた箸をポロリとテーブルの上に落としてしまった。それからつい笑ってしまう。
「そんなことあるわけないでしょう。そこまで嫌いなひとと
「よかった」
そういって安心したように瞳を緩めて微笑んだ坂口をみてまりあは思う。嫌いどころか一緒にいて楽しいし好きだと思う。但し、それは上茶谷に感じる好きと少し違う。坂口への感情はくっきりとした輪郭があって、手にもったり眺めたりすることができる感じに似ている。一方上茶谷へのものは、空気みたいに透明で身体にするりと沁みこみ、さらには内側で勝手にふくらんでいく感覚。コントロールできない種類のものなのだ。まりあはどう説明しようかとしばらく考えたあとゆっくり口を開いた。
「……坂口くんのこと全然嫌いじゃない。むしろ好きか嫌いかって言われたら好きだと思う。でも……」
坂口はすっと瞳を細め、首を傾げた。
「でも?」
まりあはふうとひとつ、息を吐いてから言葉もゆっくりと外へ押し出した。
「……それとは違う種類の好きを感じてしまう人がいるの」