第35話
文字数 789文字
上茶谷はついさきほどまで疲れきっていたし、かなり落ち込んでもいた。忘れたはずの過去に囚われ動揺してしまう自分にも腹がたったし、それが仕事にも影響し集中力を欠いてしまった。プロとして有り得ないと上茶谷の自己嫌悪をさらに募らせた。タイミングよく予約のキャンセルがでたため、こんな日は早く帰ろうと早々に仕事を切り上げてきたのだ。
そんな時、アパートの前でばったりまりあと会った。うどんを一緒に食べようと言う。気が乗らない上茶谷を必死で誘ってくるまりあを、普通なら鬱陶しいことこのうえないと切り捨てるはずなのに、そうはできなかった。人の視線、心の動きに敏感な上茶谷はまりあの目をみた瞬間、ただただ彼を心配しているのがわかってしまった。しかも彼女と話をしていると、ぴんと張りつめている心のどこかをくすぐられてしまうようで、つい笑ってしまう。うどんを食べる事もその勢いで承諾してしまったのだ。
するりと懐に入ってくるあの個性 はズルいと上茶谷は苦笑しながら思う。笑ったおかげで憂鬱さはかなり軽減されたものの、部屋に戻りシャワーを浴びたら、そのままベッドに入って全てをシャットダウンしたくなった。やはり疲れていた。食べに行くと言ってしまったことを少なからず後悔もした。それでも約束したことは守る。それも上茶谷の信条 だったから、重い身体を引きずるようにして、まりあの部屋のブザーを鳴らしたのだ。
「ねえ! 普通女の子の部屋っていい香りがしたりするんじゃないの? まりあの部屋、病院みたいな匂いとうどんの匂いが混じって、なんだか変なんだけど!」
部屋に入るやいなや上茶谷は開口一番小さく叫んだ。まず鼻にツンとくる消毒液の匂いに臭覚を占領され、モヤモヤとした気分が一気に吹き飛ばされてしまった。まりあは臭くてすいませーん、といいながら、上茶谷の言葉など気にもとめない様子でうどんを茹でる手を止めない。
そんな時、アパートの前でばったりまりあと会った。うどんを一緒に食べようと言う。気が乗らない上茶谷を必死で誘ってくるまりあを、普通なら鬱陶しいことこのうえないと切り捨てるはずなのに、そうはできなかった。人の視線、心の動きに敏感な上茶谷はまりあの目をみた瞬間、ただただ彼を心配しているのがわかってしまった。しかも彼女と話をしていると、ぴんと張りつめている心のどこかをくすぐられてしまうようで、つい笑ってしまう。うどんを食べる事もその勢いで承諾してしまったのだ。
するりと懐に入ってくるあの
「ねえ! 普通女の子の部屋っていい香りがしたりするんじゃないの? まりあの部屋、病院みたいな匂いとうどんの匂いが混じって、なんだか変なんだけど!」
部屋に入るやいなや上茶谷は開口一番小さく叫んだ。まず鼻にツンとくる消毒液の匂いに臭覚を占領され、モヤモヤとした気分が一気に吹き飛ばされてしまった。まりあは臭くてすいませーん、といいながら、上茶谷の言葉など気にもとめない様子でうどんを茹でる手を止めない。