第256話
文字数 620文字
「まりあ、ちょっと待って! おちついて話を聞いて」
まりあは子供みたいにぶんぶんと首を横に振り上茶谷が掴んだ手首を外した。
「いえ、本当に用事ができてしまったんです。だからごめんなさい。失礼します」
俯いた彼女の表情はわからない。けれどその口調は普段のまりあからは想像できないくらい、断固たる意思を含んだ強いものだった。そうして素早く立ち上がって転がるように事務所から出て行ってしまった。上茶谷は上島を睨みつけて言った。
「蒼佑! 一体どういうつもりで……」
「小僧への仕返し。俺はやられたらやり返す主義でね」
上島は上茶谷の怒りなど想定済みだと言わんばかりに間髪入れずにそう答えると、にっこり微笑んだ。
「まりあちゃんを追いかけろよ。捕まえてうまく話ができなきゃそれで終わり。ちゃんとできたら……お前らはもう揺らがないんじゃないの?」
二人の視線が交差する。時間にしたら数秒だろう。けれど上茶谷は上島の意図も気持ちも理解してしまう。この日何度ついたかわからないため息をもう一度吐き出す。それからすぐにポケットに手を突っ込み、取り出した鍵をぽーんと放り投げた。ゆっくりと放物線を描いて落ちてきたそれを上島がキャッチする。
「蒼佑に言われなくてもわかってる。ここの戸締りをしておいて」
上島の口元に淡い笑みが浮かぶ。それから視線を落とし、鍵を握った方の手をあげてゆっくり振った。
「了解。ほら、早く行け」
上茶谷も小さく頷く。それからすぐに走り出した。
まりあは子供みたいにぶんぶんと首を横に振り上茶谷が掴んだ手首を外した。
「いえ、本当に用事ができてしまったんです。だからごめんなさい。失礼します」
俯いた彼女の表情はわからない。けれどその口調は普段のまりあからは想像できないくらい、断固たる意思を含んだ強いものだった。そうして素早く立ち上がって転がるように事務所から出て行ってしまった。上茶谷は上島を睨みつけて言った。
「蒼佑! 一体どういうつもりで……」
「小僧への仕返し。俺はやられたらやり返す主義でね」
上島は上茶谷の怒りなど想定済みだと言わんばかりに間髪入れずにそう答えると、にっこり微笑んだ。
「まりあちゃんを追いかけろよ。捕まえてうまく話ができなきゃそれで終わり。ちゃんとできたら……お前らはもう揺らがないんじゃないの?」
二人の視線が交差する。時間にしたら数秒だろう。けれど上茶谷は上島の意図も気持ちも理解してしまう。この日何度ついたかわからないため息をもう一度吐き出す。それからすぐにポケットに手を突っ込み、取り出した鍵をぽーんと放り投げた。ゆっくりと放物線を描いて落ちてきたそれを上島がキャッチする。
「蒼佑に言われなくてもわかってる。ここの戸締りをしておいて」
上島の口元に淡い笑みが浮かぶ。それから視線を落とし、鍵を握った方の手をあげてゆっくり振った。
「了解。ほら、早く行け」
上茶谷も小さく頷く。それからすぐに走り出した。