第168話
文字数 645文字
「上茶谷さん」
「……なんでしょう」
さきほどよりどこか表情を緩めた坂口と鏡越しで目が合う。
「あなたが面白半分でまりあさんに構っているようなら、排除してやろうってここまで乗り込んできたんですけどね。俺の方が排除されそうな勢いで睨まれてどうしようかと思いましたよ」
「お客様を睨んだりしませんよ。人聞きの悪い」
苦笑する上茶谷に坂口はとぼけた口調で、さっきのアレは違うんですか? なんて言って笑ったあと音量を落として呟いた。
「上茶谷さんもまりあさんのこと……本気なんですね?」
その言葉に上茶谷の動きが止まる。坂口を見つめ返すと、彼は困ったように笑った。
「やっぱりそうですよね。それならどうして……」
坂口がどこか困惑したような表情でその先を言い淀み、口ごもった時だった。ヤナセがすっとふたりの会話に割り込んだ。
「お話し中失礼します。ダイゴさん、行田様からお電話ですが」
「……今、行きます。坂口さん、ちょっとすいません」
「ああ、はい。どうぞ」
坂口はまだ何かを考えるように曖昧な表情でうなづいたのを視界の隅に捉えながら、ヤナセに坂口のシャンプーを指示して上茶谷はその場を離れた。上茶谷が最後のために坂口の席に戻り仕上げのカットをしている時も、彼は黙って何かを考えている様子だった。
上茶谷も無理に話さずにいたけれど、はっきり物を言うタイプの坂口が口ごもってしまったのが、引っかかっていた。あの困惑した表情は上茶谷の関心をひこうとして、わざとされたものではなく、意図せず顔にでたものだと感じていた。
「……なんでしょう」
さきほどよりどこか表情を緩めた坂口と鏡越しで目が合う。
「あなたが面白半分でまりあさんに構っているようなら、排除してやろうってここまで乗り込んできたんですけどね。俺の方が排除されそうな勢いで睨まれてどうしようかと思いましたよ」
「お客様を睨んだりしませんよ。人聞きの悪い」
苦笑する上茶谷に坂口はとぼけた口調で、さっきのアレは違うんですか? なんて言って笑ったあと音量を落として呟いた。
「上茶谷さんもまりあさんのこと……本気なんですね?」
その言葉に上茶谷の動きが止まる。坂口を見つめ返すと、彼は困ったように笑った。
「やっぱりそうですよね。それならどうして……」
坂口がどこか困惑したような表情でその先を言い淀み、口ごもった時だった。ヤナセがすっとふたりの会話に割り込んだ。
「お話し中失礼します。ダイゴさん、行田様からお電話ですが」
「……今、行きます。坂口さん、ちょっとすいません」
「ああ、はい。どうぞ」
坂口はまだ何かを考えるように曖昧な表情でうなづいたのを視界の隅に捉えながら、ヤナセに坂口のシャンプーを指示して上茶谷はその場を離れた。上茶谷が最後のために坂口の席に戻り仕上げのカットをしている時も、彼は黙って何かを考えている様子だった。
上茶谷も無理に話さずにいたけれど、はっきり物を言うタイプの坂口が口ごもってしまったのが、引っかかっていた。あの困惑した表情は上茶谷の関心をひこうとして、わざとされたものではなく、意図せず顔にでたものだと感じていた。