第64話
文字数 912文字
「わたし、根本のところで男の人が苦手なんです」
上茶谷はマジマジとまりあを見つめた。彼女と一緒にいると自然体でいられて寛げるし楽しい。逆にいえばそれは、まりあが人に対して壁を作らないからだ。それは男女問わず誰に対してもそうだろう。彼女のことを好きだという男も、まりあのそういうところに惹かれたはずだ。つまりどこが苦手なのか上茶谷にはよくわからない。
「全然そんなふうに思えないけど」
上茶谷がさらりと、かつ断言するようにそう言うとまりあはそっと苦笑した。
「お友達とか同僚とかなら問題無いんです。……恋人になってしまうとダメなんです」
「どうして?」
「どうして。うーん、うまく説明できないかもしれないけど……」
まりあは視線をどこかに彷徨わせたあとゆっくりと口を開いた。
「男の人とつきあう時好きだから付き合いますよね。……付き合っていると普通はどんどん親密になるはずじゃないですか。気持ちとか……身体も。それがわたしの場合、一緒にいる時間が増えてくると醒めていると思われちゃうみたいで。わたしはちゃんと好きなんです。好きなんですけど、普通の女の子より温度が上がらないというか、上がっているようにみえないんですね。わたしなりに努力してみましたけど、そんなの努力してどうにかするものでもないですよね」
まりあが悲しげに微笑む。アルコールが入っているから抽象的には言えたのだろう。ほんのりと紅くなっている彼女の頬は柔らかな桃のようで幼く見える。けれどやはり彼女も様々な思いを重ねて生きてきた大人なのだ。それを上茶谷なりに理解したうえであえてスッパリと聞く。
「それってセックスが苦手だからダメになるってことなの?」
彼の言葉にさらに大きく瞳を広げてから、まりあは口元をへの字にして小さく笑った。
「そうですね。たぶんそうなんです。でもよく考えたらそれ以前に、触られるのもダメだったのかもしれません。そんなのおかしいって自分に言い聞かせて普通にしてました。だけど、好きで付き合ったはずの人でも触られると高揚するどころか、うなじのあたりがゾクッと寒くなることもあって。あ……」
そこまで言ったところで、まりあがびっくりしたように口に手を当てた。
上茶谷はマジマジとまりあを見つめた。彼女と一緒にいると自然体でいられて寛げるし楽しい。逆にいえばそれは、まりあが人に対して壁を作らないからだ。それは男女問わず誰に対してもそうだろう。彼女のことを好きだという男も、まりあのそういうところに惹かれたはずだ。つまりどこが苦手なのか上茶谷にはよくわからない。
「全然そんなふうに思えないけど」
上茶谷がさらりと、かつ断言するようにそう言うとまりあはそっと苦笑した。
「お友達とか同僚とかなら問題無いんです。……恋人になってしまうとダメなんです」
「どうして?」
「どうして。うーん、うまく説明できないかもしれないけど……」
まりあは視線をどこかに彷徨わせたあとゆっくりと口を開いた。
「男の人とつきあう時好きだから付き合いますよね。……付き合っていると普通はどんどん親密になるはずじゃないですか。気持ちとか……身体も。それがわたしの場合、一緒にいる時間が増えてくると醒めていると思われちゃうみたいで。わたしはちゃんと好きなんです。好きなんですけど、普通の女の子より温度が上がらないというか、上がっているようにみえないんですね。わたしなりに努力してみましたけど、そんなの努力してどうにかするものでもないですよね」
まりあが悲しげに微笑む。アルコールが入っているから抽象的には言えたのだろう。ほんのりと紅くなっている彼女の頬は柔らかな桃のようで幼く見える。けれどやはり彼女も様々な思いを重ねて生きてきた大人なのだ。それを上茶谷なりに理解したうえであえてスッパリと聞く。
「それってセックスが苦手だからダメになるってことなの?」
彼の言葉にさらに大きく瞳を広げてから、まりあは口元をへの字にして小さく笑った。
「そうですね。たぶんそうなんです。でもよく考えたらそれ以前に、触られるのもダメだったのかもしれません。そんなのおかしいって自分に言い聞かせて普通にしてました。だけど、好きで付き合ったはずの人でも触られると高揚するどころか、うなじのあたりがゾクッと寒くなることもあって。あ……」
そこまで言ったところで、まりあがびっくりしたように口に手を当てた。