第154話
文字数 805文字
ナナが真面目な顔で問いかけてきたから、まりあは思わず苦笑した。
「ほら、ずいぶん前に坂口さんが出禁 になったK工業あるじゃないですか」
「……あ、うん。結構大きい代理店だったのに競合他社に契約ぜんぶもっていかれたって口惜しがっていたもんね」
あれから一年くらいたつが当時さすがの坂口も相当堪えたようで、数日暗い顔をしていたのをまりあも覚えていた。
「でも坂口さん、出禁なのにずっとK工業にアプローチしていたみたいなんですよ」
「え?」
そんな話はまるで聞いていなかったからまりあは大きく瞳を見開いた。
「喧嘩別れした担当部長に会えなくても、追い返されてもまわりにいる人から、じわりじわりと陥落させていって。とうとうその部長も根負けして代理店契約が復活したみたいです。さらには以前より契約が増えたらしいですよ。あ、なんでこんなことを知っているかというとですねー。昨日支店長と坂口さんがトイレの前で立ち話しているのを、こっそり盗み聞きしましたー」
エヘヘと笑うナナに、まりあもつい笑ってしまったものの驚きは隠せない。坂口のK工業出禁事件は部署内では有名で、上司が謝りにいっても門前払い、まるごと契約を解除されたのだ。そんな状況から一年後に代理店に復活させ、さらに契約を増やすなんて聞いたことがない。
「坂口くん、すごいね。普通そんなことできない」
ナナは大きく頷いた。
「ですよね。普通の人ならメンタル折れますって。K工業の部長っていう人がかなりくせ者らしくて。歴代営業担当、みんな病んでたみたいですから。それまで当たらず触らずでやりすごしてきたのを坂口さんが忖度なしで、ズバッとナタを振るって寝た子を起こした状態になったみたいですよね。支店長も事情はわかっていたから出禁は仕方ないって諦めていたみたいですけど、それをちゃんと修復して、さらには契約増やしちゃうんですから」
「はあ……」
まりあが思わず吐息をつくと、ナナが笑った。
「ほら、ずいぶん前に坂口さんが
「……あ、うん。結構大きい代理店だったのに競合他社に契約ぜんぶもっていかれたって口惜しがっていたもんね」
あれから一年くらいたつが当時さすがの坂口も相当堪えたようで、数日暗い顔をしていたのをまりあも覚えていた。
「でも坂口さん、出禁なのにずっとK工業にアプローチしていたみたいなんですよ」
「え?」
そんな話はまるで聞いていなかったからまりあは大きく瞳を見開いた。
「喧嘩別れした担当部長に会えなくても、追い返されてもまわりにいる人から、じわりじわりと陥落させていって。とうとうその部長も根負けして代理店契約が復活したみたいです。さらには以前より契約が増えたらしいですよ。あ、なんでこんなことを知っているかというとですねー。昨日支店長と坂口さんがトイレの前で立ち話しているのを、こっそり盗み聞きしましたー」
エヘヘと笑うナナに、まりあもつい笑ってしまったものの驚きは隠せない。坂口のK工業出禁事件は部署内では有名で、上司が謝りにいっても門前払い、まるごと契約を解除されたのだ。そんな状況から一年後に代理店に復活させ、さらに契約を増やすなんて聞いたことがない。
「坂口くん、すごいね。普通そんなことできない」
ナナは大きく頷いた。
「ですよね。普通の人ならメンタル折れますって。K工業の部長っていう人がかなりくせ者らしくて。歴代営業担当、みんな病んでたみたいですから。それまで当たらず触らずでやりすごしてきたのを坂口さんが忖度なしで、ズバッとナタを振るって寝た子を起こした状態になったみたいですよね。支店長も事情はわかっていたから出禁は仕方ないって諦めていたみたいですけど、それをちゃんと修復して、さらには契約増やしちゃうんですから」
「はあ……」
まりあが思わず吐息をつくと、ナナが笑った。