第91話
文字数 666文字
「随分立派な車に乗ってるのね」
運転席右側、肌触りいい革張りの助手席にゆっくりと腰をおろした上茶谷は車内を見回して呟いた。
「三年これに乗ってる。壊れない限り暫く乗るよ」
上島は口元に笑みを浮かべたままエンジンをかけて、三又槍 のエンブレムが真ん中についたハンドルをゆっくりまわして走り出す。
上島から会いたいと電話で言われ、最初上茶谷は拒否した。話したいことがあれば電話でいえばいい。会うならリカコを交えて話し合う。そう言ってやった。けれど上島は簡単には引き下がらなかった。まず顔をみて話したい。場所はどこでもいい。上茶谷が指定するところにいく、と。
電話をかけてくるタイミング。声の感じ。いつもの余裕綽々な上島ではなかった。どこか必死さが滲んでいた。上茶谷は威圧的な言い方には強く反発するけれど、こういった必死な人間を無碍 にすることはできない。上島がそれをわかってそうしているのかもしれない。それでも話を聞くだけなら、とため息まじりに会うことには同意したのだ。
仕事終わりに飲みにいける所もかぎられている。かといって上島の部屋に行くことも、上茶谷の部屋に呼ぶこともあり得ない。結局上茶谷の仕事場である青山まで上島が車で迎えにきて、江古田のアパートまでの道のりに車内で話を聞くことにした。
途切れた会話のあと、乾いたようなエンジン音だけがしばらく響く。口火を切ったのは上茶谷だった。
「ラリュールを買収して、私と共同経営したいって、本気なの?」
前を見つめていた上島が上茶谷へと視線を向けた気配のあとため息混じりのような笑みをこぼした。
運転席右側、肌触りいい革張りの助手席にゆっくりと腰をおろした上茶谷は車内を見回して呟いた。
「三年これに乗ってる。壊れない限り暫く乗るよ」
上島は口元に笑みを浮かべたままエンジンをかけて、
上島から会いたいと電話で言われ、最初上茶谷は拒否した。話したいことがあれば電話でいえばいい。会うならリカコを交えて話し合う。そう言ってやった。けれど上島は簡単には引き下がらなかった。まず顔をみて話したい。場所はどこでもいい。上茶谷が指定するところにいく、と。
電話をかけてくるタイミング。声の感じ。いつもの余裕綽々な上島ではなかった。どこか必死さが滲んでいた。上茶谷は威圧的な言い方には強く反発するけれど、こういった必死な人間を
仕事終わりに飲みにいける所もかぎられている。かといって上島の部屋に行くことも、上茶谷の部屋に呼ぶこともあり得ない。結局上茶谷の仕事場である青山まで上島が車で迎えにきて、江古田のアパートまでの道のりに車内で話を聞くことにした。
途切れた会話のあと、乾いたようなエンジン音だけがしばらく響く。口火を切ったのは上茶谷だった。
「ラリュールを買収して、私と共同経営したいって、本気なの?」
前を見つめていた上島が上茶谷へと視線を向けた気配のあとため息混じりのような笑みをこぼした。