第14話
文字数 876文字
上茶谷はごくさり気なく、まりあの言葉を流して微笑んだ。
「さてと。ケーキごちそうさま。おいしかったわ。もう遅いしそろそろいかないとね」
女性同士なら会話が弾んで勢いそのまま楽しくお喋りタイムになったりする。けれどいくら話がしやすくてもそのあたりは男性、上茶谷は未練なくスパッと会話を締めくくりたちあがってしまう。まりあとしてはもう少し話していたい気分だったから、物足りなくて少し寂しく感じてしまう。
「あ、あの!」
慌てて立ち上がって、上茶谷を見上げた。
「今度カミ、カミチャタニさんの美容院、いってもいいですか?」
「え?」
上茶谷が驚いたように瞳を見開いたので慌てて言葉をつなぐ。
「あ、だってカ、カミチャタニさん、髪の毛すごく綺麗で似合ってるし。わたしも似合う髪型してもらえるかなって……」
まりあはなんでこんなに必死になって言っているんだろうと自分が恥ずかしくなってくる。上茶谷は数秒、まりあを見つめていたけれど口元を緩めて微笑んだ。
「ありがとう。青山にあるラリュールってお店よ。検索してよさそうなら予約いれてみて」
「ら、らりるー?」
まりあがそう聞き返すと、上茶谷が吹き出した。
「違うわよ。ラ、リュール」
「ら、りゅーる」
英語の授業のように慎重に発音したまりあを、上茶谷は生徒を見守る先生のように目を細めて頷いた。
「そうそう。それが正解」
上茶谷が笑いながら頷く。彼の名字といい、美容院の名前といい何だか噛んでしまいそうなものばかりだ。
「カ、カミチャタニさんって難しい名前に囲まれてますねえ」
「あなたが舌っ足らずのせいもあるわよ。それ程でもないでしょ」
上茶谷はからかうように笑った。そのくだけた笑顔をまりあはついぼおっとみつめてしまう。
「それじゃまたね、おやすみなさい」
彼はそういってドアを開けその隙間に滑り込むようにして、スッと出ていってしまった。ぱたんとドアが閉まったあとも、まりあはそのまましばらく残像をみつめるように立ち尽くしていた。
「……風みたい」
無意識に呟く。ほのかに漂う柑橘系のオードトワレの香りがまりあの鼻孔を優しくくすぐった。
「さてと。ケーキごちそうさま。おいしかったわ。もう遅いしそろそろいかないとね」
女性同士なら会話が弾んで勢いそのまま楽しくお喋りタイムになったりする。けれどいくら話がしやすくてもそのあたりは男性、上茶谷は未練なくスパッと会話を締めくくりたちあがってしまう。まりあとしてはもう少し話していたい気分だったから、物足りなくて少し寂しく感じてしまう。
「あ、あの!」
慌てて立ち上がって、上茶谷を見上げた。
「今度カミ、カミチャタニさんの美容院、いってもいいですか?」
「え?」
上茶谷が驚いたように瞳を見開いたので慌てて言葉をつなぐ。
「あ、だってカ、カミチャタニさん、髪の毛すごく綺麗で似合ってるし。わたしも似合う髪型してもらえるかなって……」
まりあはなんでこんなに必死になって言っているんだろうと自分が恥ずかしくなってくる。上茶谷は数秒、まりあを見つめていたけれど口元を緩めて微笑んだ。
「ありがとう。青山にあるラリュールってお店よ。検索してよさそうなら予約いれてみて」
「ら、らりるー?」
まりあがそう聞き返すと、上茶谷が吹き出した。
「違うわよ。ラ、リュール」
「ら、りゅーる」
英語の授業のように慎重に発音したまりあを、上茶谷は生徒を見守る先生のように目を細めて頷いた。
「そうそう。それが正解」
上茶谷が笑いながら頷く。彼の名字といい、美容院の名前といい何だか噛んでしまいそうなものばかりだ。
「カ、カミチャタニさんって難しい名前に囲まれてますねえ」
「あなたが舌っ足らずのせいもあるわよ。それ程でもないでしょ」
上茶谷はからかうように笑った。そのくだけた笑顔をまりあはついぼおっとみつめてしまう。
「それじゃまたね、おやすみなさい」
彼はそういってドアを開けその隙間に滑り込むようにして、スッと出ていってしまった。ぱたんとドアが閉まったあとも、まりあはそのまましばらく残像をみつめるように立ち尽くしていた。
「……風みたい」
無意識に呟く。ほのかに漂う柑橘系のオードトワレの香りがまりあの鼻孔を優しくくすぐった。