第245話
文字数 681文字
多少強引だけど、やはり坂口は坂口なのだと思う。まりあの手首が痛くないようにと絶妙な力で掴んでいるから。彼が衝動的にまりあと手を繋いでいるわけではないということがわかる。彼の手から伝わってくる熱はけっして嫌じゃない。むしろ好ましいと感じた。男性に触れられるのが苦手なまりあにとって、坂口はやっぱり特別な人なのだと思う。
高校時代部活の帰り道、気になっていた男の子と二人で歩いた夏の夕暮れを思い出す。永遠に若さも時間も続くように感じていたあの頃。男の子が微かに触れあった指先の熱。夏の空気よりも熱っぽく甘酸っぱいあの感触。まだ純粋に恋にあこがれていたあのときと同じような熱を坂口からも感じた。
恋によって生じた熱量はゆっくりと柔らかな愛情に変わるはず。あの頃はそう信じていたのに。それはいつも冷たく凝固し最後に砕けちって消えた。けれど唯一、上茶谷だけがまりあの熱を適温なままでいさせてくれる存在だと気づいてしまったのだ。冷めないように、熱しすぎないように。まりあをいつもそっと包んでくれる。
けれどそれは彼のもつセクシャルティの持つ揺らぎゆえだということもわかっている。上茶谷がまりあを、恋人として愛してくれなくてもいい。そばに居られるだけでいい。そう覚悟を決めた上で上茶谷と一緒にいたいと願ったはずだった。それがなんだかわからないうちに三人で同居するようになり、居心地のよさにその覚悟を忘れてかけていたのかもしれない。だからこそちゃんとしなくてはいけない。まりあはきゅっと唇をかみしめた。
「坂口くん」
まりあの呼びかけに歩みが止まった。坂口がゆっくりと振り返る。
高校時代部活の帰り道、気になっていた男の子と二人で歩いた夏の夕暮れを思い出す。永遠に若さも時間も続くように感じていたあの頃。男の子が微かに触れあった指先の熱。夏の空気よりも熱っぽく甘酸っぱいあの感触。まだ純粋に恋にあこがれていたあのときと同じような熱を坂口からも感じた。
恋によって生じた熱量はゆっくりと柔らかな愛情に変わるはず。あの頃はそう信じていたのに。それはいつも冷たく凝固し最後に砕けちって消えた。けれど唯一、上茶谷だけがまりあの熱を適温なままでいさせてくれる存在だと気づいてしまったのだ。冷めないように、熱しすぎないように。まりあをいつもそっと包んでくれる。
けれどそれは彼のもつセクシャルティの持つ揺らぎゆえだということもわかっている。上茶谷がまりあを、恋人として愛してくれなくてもいい。そばに居られるだけでいい。そう覚悟を決めた上で上茶谷と一緒にいたいと願ったはずだった。それがなんだかわからないうちに三人で同居するようになり、居心地のよさにその覚悟を忘れてかけていたのかもしれない。だからこそちゃんとしなくてはいけない。まりあはきゅっと唇をかみしめた。
「坂口くん」
まりあの呼びかけに歩みが止まった。坂口がゆっくりと振り返る。