第273話
文字数 628文字
「ナナちゃんが言おうとしたこと、わかる気がするよ。なんていえばいいのかな。彼とね、同じ部屋で一緒にご飯を食べたり、話をして笑いあったりとかね。多少の喧嘩はしてもすぐにどちらからともなく手を繋いで散歩をしたり。そういう時間をいっぱい重ねて……、色々ある壁を超えていけたらいいなって思ってる」
歌うようにそう呟いたまりあをナナは見つめる。ぼんやりと二人の状況が見えた気がした。けれど今はこれ以上深いことは聞かない方がいいかもしれない。ナナは開きかけた口をつぐむ。
ただひとつ感じたのは、まりあの恋人のほうが最初の壁を超えて先にまりあの手をとったのではないかということだ。そうでなければ二人が付き合うことにはならないように思えた。心優しいこの先輩 は、人が抱えている繊細で壊れやすい領域に踏み込み、それをこじ開けてまで誰かを手に入れようとはしないだろう。愛しすぎたゆえにかつてナナが彼にしてしまったようには……。
「いいなあ、まりあさん愛されていて」
ナナがビールを飲みながら昔の苦い思い出を噛み締めぼそりと呟くと、まりあが生真面目な顔をして首を振った。
「わたしのほうが愛情の分量が多いと思うよ。今まで誰かとつきあってこんなふうに思ったことってないから、これが溺愛っていうのかなあ」
「溺愛……」
まりあの言葉を咀嚼するようにナナは呟いた。人生で一番好きになったあの人にしてしまったのが溺愛だったと、今のナナならわかる。執着と愛情がごちゃ混ぜになったずしりと重たい恋。
歌うようにそう呟いたまりあをナナは見つめる。ぼんやりと二人の状況が見えた気がした。けれど今はこれ以上深いことは聞かない方がいいかもしれない。ナナは開きかけた口をつぐむ。
ただひとつ感じたのは、まりあの恋人のほうが最初の壁を超えて先にまりあの手をとったのではないかということだ。そうでなければ二人が付き合うことにはならないように思えた。心優しいこの
「いいなあ、まりあさん愛されていて」
ナナがビールを飲みながら昔の苦い思い出を噛み締めぼそりと呟くと、まりあが生真面目な顔をして首を振った。
「わたしのほうが愛情の分量が多いと思うよ。今まで誰かとつきあってこんなふうに思ったことってないから、これが溺愛っていうのかなあ」
「溺愛……」
まりあの言葉を咀嚼するようにナナは呟いた。人生で一番好きになったあの人にしてしまったのが溺愛だったと、今のナナならわかる。執着と愛情がごちゃ混ぜになったずしりと重たい恋。