第167話
文字数 715文字
客商売ゆえ上茶谷は冷静さを保った笑みを浮かべる。けれど尖った感情を溶かしこんだその微笑は、坂口の視線を撥ね付ける鈍く光る刃のようだ。
「坂口さんこそ、私に責任転嫁されていませんか? そもそもまりあがあなたに惹かれているのであれば、私の存在なんて関係ないじゃないですか。もしまりあに振られたのだとしたら、それを私の責任にされても困ります。人のせいにするような男性がまりあを幸せにできるとは思えませんね」
微笑を浮かべつつクレーム覚悟でぴしゃりと言いたいことを言う。坂口は一瞬だけ瞳を見開いたあと、怒るどころか面白いというように口元を緩めた。
「おかげさまで首の皮一枚つながって、まだ振られてません。それにしてもやっぱり食えない人ですね、上茶谷さんて」
先程までの勢いをあっさり引っ込めそういう坂口に、上茶谷も力を抜いて肩を竦めてみせる。
「お互い様でしょう」
そういい返すと坂口は楽しそうに笑った。その人懐っこい笑顔を見て上茶谷は悟る。タイミングを見極めて、がつんと本音をぶつけ言いたいことを言い合える空気をつくる。場が緊張すればうまく緩める反射神経も持っている。若く勢いがあるから最初は感情任せに話をしている印象を受けたが、坂口は戦略的に会話をしているのだ。
クレバーでなおかつ愛嬌のある人間は嫌いじゃない。むしろ気が合ったり理解できることのほうが多い。上島も似たようなタイプだ。上茶谷は微かに首を振ると、しばらく黙って髪を切ることに集中した。それからスタイルが形になったところで坂口に声を掛ける。
「一旦ここで、シャンプーしますね。その後また微調整のために少し切ります」
そういってケープを外そうとした上茶谷に、坂口が声をかけてきた。
「坂口さんこそ、私に責任転嫁されていませんか? そもそもまりあがあなたに惹かれているのであれば、私の存在なんて関係ないじゃないですか。もしまりあに振られたのだとしたら、それを私の責任にされても困ります。人のせいにするような男性がまりあを幸せにできるとは思えませんね」
微笑を浮かべつつクレーム覚悟でぴしゃりと言いたいことを言う。坂口は一瞬だけ瞳を見開いたあと、怒るどころか面白いというように口元を緩めた。
「おかげさまで首の皮一枚つながって、まだ振られてません。それにしてもやっぱり食えない人ですね、上茶谷さんて」
先程までの勢いをあっさり引っ込めそういう坂口に、上茶谷も力を抜いて肩を竦めてみせる。
「お互い様でしょう」
そういい返すと坂口は楽しそうに笑った。その人懐っこい笑顔を見て上茶谷は悟る。タイミングを見極めて、がつんと本音をぶつけ言いたいことを言い合える空気をつくる。場が緊張すればうまく緩める反射神経も持っている。若く勢いがあるから最初は感情任せに話をしている印象を受けたが、坂口は戦略的に会話をしているのだ。
クレバーでなおかつ愛嬌のある人間は嫌いじゃない。むしろ気が合ったり理解できることのほうが多い。上島も似たようなタイプだ。上茶谷は微かに首を振ると、しばらく黙って髪を切ることに集中した。それからスタイルが形になったところで坂口に声を掛ける。
「一旦ここで、シャンプーしますね。その後また微調整のために少し切ります」
そういってケープを外そうとした上茶谷に、坂口が声をかけてきた。