第219話
文字数 661文字
坂口の感情を抑えた声。けっして大きくないのに、三人の間にある空気を間違いなく揺らす。数秒の間なのに、まりあはとてつもなく長い時間に感じた。人生の走馬灯をみるのはこんな時間ではないかと思ってしまう。
坂口はいい男だから付き合ってみればいい。上茶谷が以前言った言葉が頭をよぎる。そして最近のどこか素っ気ない彼の態度には、過度にまりあと親密にならないような注意深さがあった。上茶谷はまりあを恋人としては愛することができない。そのメッセージをちゃんとわかったうえで、彼の傍にいたいと上茶谷に伝えた。けれどいま、この場でそれを否定されてしまうのはさすがに辛い。
「さ、さ、坂口くん!」
慌てて小さく叫んだまりあに、坂口はゆっくりと視線を向けた。
「あ、 あの。これはその……ダイゴさんは」
まりあがそこまで言うと坂口は人差し指を唇にあてて首をふる。その真剣な瞳にまりあは何も言えなくなってしまう。坂口はそれからゆっくりと視線を上茶谷に合わせた。
「上茶谷さん。どうなんですか?」
問い詰めるような口調ではない。静かな、いっそ穏やかといってもいい口ぶりなのに、上茶谷の答えを聞くまではけっして動かないという強い意志も感じられた。まりあは二人の横顔を見つめることしかできない。上茶谷も静かに坂口を見つめていた。数十秒の沈黙に耐えられずまりあが小さな吐息をもらしたのが合図になったように、上茶谷がその口元にふっと笑みを浮かべた。
「坂口さん」
「はい」
「あなたって頭がいいはずなのに、損得とかそういうものを度外視して行動するところがあるでしょ?」
坂口はいい男だから付き合ってみればいい。上茶谷が以前言った言葉が頭をよぎる。そして最近のどこか素っ気ない彼の態度には、過度にまりあと親密にならないような注意深さがあった。上茶谷はまりあを恋人としては愛することができない。そのメッセージをちゃんとわかったうえで、彼の傍にいたいと上茶谷に伝えた。けれどいま、この場でそれを否定されてしまうのはさすがに辛い。
「さ、さ、坂口くん!」
慌てて小さく叫んだまりあに、坂口はゆっくりと視線を向けた。
「あ、 あの。これはその……ダイゴさんは」
まりあがそこまで言うと坂口は人差し指を唇にあてて首をふる。その真剣な瞳にまりあは何も言えなくなってしまう。坂口はそれからゆっくりと視線を上茶谷に合わせた。
「上茶谷さん。どうなんですか?」
問い詰めるような口調ではない。静かな、いっそ穏やかといってもいい口ぶりなのに、上茶谷の答えを聞くまではけっして動かないという強い意志も感じられた。まりあは二人の横顔を見つめることしかできない。上茶谷も静かに坂口を見つめていた。数十秒の沈黙に耐えられずまりあが小さな吐息をもらしたのが合図になったように、上茶谷がその口元にふっと笑みを浮かべた。
「坂口さん」
「はい」
「あなたって頭がいいはずなのに、損得とかそういうものを度外視して行動するところがあるでしょ?」