第122話
文字数 669文字
「その……、坂口くんにもほめてもらいました」
「彼に会ったの?」
いつもより少し低い自分の声をまるで他人のもののように上茶谷は聞いた。
「お店 を出たあとで、メッセージが来て。髪型みせろって書いてあったんで、アシスタントさんが撮ってくれた画像を送ったんです」
そう言って自分の履いているサンダルに視線を落としたまりあを見つめた。彼女が坂口の名前を口にしたとたん、ふたりの間にある空気が濃縮して固くなったように上茶谷は感じた。
「彼はなんて?」
まりあは顔をあげて、首を小さく捻りながら答えた。
「えーと……、別人みたいというのではなく、まんまるにふくれていた青虫が、さなぎになって殻破って、蝶になってでてきたみたいな似合い方だそうです。彼なりにほめているんですよね、これ」
まりあが苦笑しながらそういうのを上茶谷は静かに見つめ、目があったところで彼女に同調するように小さく微笑んでみせた。坂口はまりあが上茶谷の店に来ることを気にしていたのだろう。まりあのこともよく見ているのがわかる。上茶谷は静かに微笑みを消す。視線を落とすとまりあの足の爪がサンダルの先から覗いているのが見えた。ペディキュアもされていない、素のままの小さな貝みたいな爪。表現しがたい感情が上茶谷のなかにジワジワと込み上げてきた。
そもそもまりあが坂口のことを口にしたのは、上茶谷が彼と付き合うことを強く勧めたからだ。上茶谷もそんなことはわかっている。わかっているのにもどかしくて苦しい何かが、胸のあたりに広がってきて、言わないつもりだった問いかけが、勝手に口からこぼれ落ちてくる。
「彼に会ったの?」
いつもより少し低い自分の声をまるで他人のもののように上茶谷は聞いた。
「お
そう言って自分の履いているサンダルに視線を落としたまりあを見つめた。彼女が坂口の名前を口にしたとたん、ふたりの間にある空気が濃縮して固くなったように上茶谷は感じた。
「彼はなんて?」
まりあは顔をあげて、首を小さく捻りながら答えた。
「えーと……、別人みたいというのではなく、まんまるにふくれていた青虫が、さなぎになって殻破って、蝶になってでてきたみたいな似合い方だそうです。彼なりにほめているんですよね、これ」
まりあが苦笑しながらそういうのを上茶谷は静かに見つめ、目があったところで彼女に同調するように小さく微笑んでみせた。坂口はまりあが上茶谷の店に来ることを気にしていたのだろう。まりあのこともよく見ているのがわかる。上茶谷は静かに微笑みを消す。視線を落とすとまりあの足の爪がサンダルの先から覗いているのが見えた。ペディキュアもされていない、素のままの小さな貝みたいな爪。表現しがたい感情が上茶谷のなかにジワジワと込み上げてきた。
そもそもまりあが坂口のことを口にしたのは、上茶谷が彼と付き合うことを強く勧めたからだ。上茶谷もそんなことはわかっている。わかっているのにもどかしくて苦しい何かが、胸のあたりに広がってきて、言わないつもりだった問いかけが、勝手に口からこぼれ落ちてくる。