第101話
文字数 888文字
今日は色々なことがあり過ぎたと上茶谷は思う。リカコの話に衝撃を受け、上島にはやっぱり動揺させられた。相変わらず身勝手ではあるけれど、彼らしくない必死な言葉はまだ胸の奥で響いている。けれどこの胸の奥のほうで感じるチリチリとした痛み。目を閉じてこの痛みはなんだろうと考える。
「……あ」
自分の声に驚いて上茶谷は目をあける。まりあだ。あの坂口という男は、本気でまりあのことが好きなのだろう。あの瞳をみればわかる。以前聞いた話では、まりあも彼に好感をもっているようだったし、実際二人一緒にいるところをみてもお似合いだと感じた。上茶谷も彼と付き合ってみればいいのにと以前言ったことも覚えている。まりあも彼になら触れられても大丈夫かもしれない。彼女が触れられて嫌な感じがしない男は自分だけではない。上茶谷は小さくため息をつく。
彼とつきあうようになれば、性別は男である上茶谷が彼女に触れることは控えたほうがいいだろう。添い寝など論外だ。坂口と結婚でもすることになれば彼女はこのアパートからもでていく。上茶谷の傍からいなくなるのだ。想像以上に強い喪失感が胸を圧迫して苦しくなり思わず手を当てる。腕にはまだまりあを抱き締めて寝た感覚が残っていた。
ふわふわ柔らかく頼りないようでいて、体温を優しく分け与えてくれるあの感じ。安らぎ。心地よさ。愛おしさ。一気に押し寄せてきたそれらの感情が、先程上島が言っていた言葉を蘇らせる。
『どうやっても惹かれてしまう。それでいて一緒にいると心が落ち着く。そんな人間と一緒に、同じ方向を見て、生きていくことなんだって』
上茶谷は大きく瞳を見開いた後ぎゅっと手のひらを握りしめて思う。自分が女の子に恋愛感情など抱く訳がない。仲良しの友達を取られてしまうようで寂しいだけなのだ。そもそもまりあだって上茶谷の存在は女友達のような感覚なはず。まりあが幸せになれるのならば大人げない考えは捨てて友人として祝福すべきだろう。そこまで考えて上茶谷は自嘲気味に微笑んだ。
「おかしいわね、私」
ぽつんとこぼれ落ちたその言葉は、電気をつけていない部屋の薄闇に溶けて消えていった。
「……あ」
自分の声に驚いて上茶谷は目をあける。まりあだ。あの坂口という男は、本気でまりあのことが好きなのだろう。あの瞳をみればわかる。以前聞いた話では、まりあも彼に好感をもっているようだったし、実際二人一緒にいるところをみてもお似合いだと感じた。上茶谷も彼と付き合ってみればいいのにと以前言ったことも覚えている。まりあも彼になら触れられても大丈夫かもしれない。彼女が触れられて嫌な感じがしない男は自分だけではない。上茶谷は小さくため息をつく。
彼とつきあうようになれば、性別は男である上茶谷が彼女に触れることは控えたほうがいいだろう。添い寝など論外だ。坂口と結婚でもすることになれば彼女はこのアパートからもでていく。上茶谷の傍からいなくなるのだ。想像以上に強い喪失感が胸を圧迫して苦しくなり思わず手を当てる。腕にはまだまりあを抱き締めて寝た感覚が残っていた。
ふわふわ柔らかく頼りないようでいて、体温を優しく分け与えてくれるあの感じ。安らぎ。心地よさ。愛おしさ。一気に押し寄せてきたそれらの感情が、先程上島が言っていた言葉を蘇らせる。
『どうやっても惹かれてしまう。それでいて一緒にいると心が落ち着く。そんな人間と一緒に、同じ方向を見て、生きていくことなんだって』
上茶谷は大きく瞳を見開いた後ぎゅっと手のひらを握りしめて思う。自分が女の子に恋愛感情など抱く訳がない。仲良しの友達を取られてしまうようで寂しいだけなのだ。そもそもまりあだって上茶谷の存在は女友達のような感覚なはず。まりあが幸せになれるのならば大人げない考えは捨てて友人として祝福すべきだろう。そこまで考えて上茶谷は自嘲気味に微笑んだ。
「おかしいわね、私」
ぽつんとこぼれ落ちたその言葉は、電気をつけていない部屋の薄闇に溶けて消えていった。