第118話
文字数 662文字
上茶谷が口を開く前にリカコはよいしょといって立ち上がり、また言っちゃったと舌を出した。
「私もそうだから。四十すぎて、人生ほぼ折り返し地点超えて余計に思ったの。これから何が起きるかわからない。やれるうちにやりたいことやろうと思って」
見上げる上茶谷にリカコはサバサバとした表情で微笑んでみせた。
「まあ、ゆっくり考えて」
ひらりと手のひらを振ってリカコは休憩室から出ていった。パタリとドアが閉じて彼女の姿が見えなくなると上茶谷はひとつ吐息をついた。
「自分を縛らなくていい、か」
それから鉛が入ったように重い身体を持ち上げるように立ち上がり、帰り支度を始める。上島と仕事をすることは自分を縛っているものをひとつ、解くことになるかもしれないとは思う。上島に別れを告げられたあの時、彼への想いは砕けた。けれどごく小さな欠片は、今でもまだ心に刺さっている。
けれどビジネスパートナーとして付き合っていくと肚を決めれば、そんな欠片もすべて消え、またフラットな状態に戻って付き合えるかもしれない。気心はしれているから仕事はしやすいだろう。なにより彼の経営者としての腕は確かだ。
ただ、まりあのこととなると、上茶谷はまるで予想がつかない。終点のないジェットコースターに乗っているみたいだと苦笑する。駅に向かう道でも電車のなかでも。まりあに言われた言葉が頭のなかでぐるぐると回っている。
『私とまた、添い寝してもらえませんか』
突然彼女が落としてきた爆弾発言。あの時、上茶谷は反射的にこう答えてしまった。
『何言ってるの。もう添い寝はだめでしょ』
「私もそうだから。四十すぎて、人生ほぼ折り返し地点超えて余計に思ったの。これから何が起きるかわからない。やれるうちにやりたいことやろうと思って」
見上げる上茶谷にリカコはサバサバとした表情で微笑んでみせた。
「まあ、ゆっくり考えて」
ひらりと手のひらを振ってリカコは休憩室から出ていった。パタリとドアが閉じて彼女の姿が見えなくなると上茶谷はひとつ吐息をついた。
「自分を縛らなくていい、か」
それから鉛が入ったように重い身体を持ち上げるように立ち上がり、帰り支度を始める。上島と仕事をすることは自分を縛っているものをひとつ、解くことになるかもしれないとは思う。上島に別れを告げられたあの時、彼への想いは砕けた。けれどごく小さな欠片は、今でもまだ心に刺さっている。
けれどビジネスパートナーとして付き合っていくと肚を決めれば、そんな欠片もすべて消え、またフラットな状態に戻って付き合えるかもしれない。気心はしれているから仕事はしやすいだろう。なにより彼の経営者としての腕は確かだ。
ただ、まりあのこととなると、上茶谷はまるで予想がつかない。終点のないジェットコースターに乗っているみたいだと苦笑する。駅に向かう道でも電車のなかでも。まりあに言われた言葉が頭のなかでぐるぐると回っている。
『私とまた、添い寝してもらえませんか』
突然彼女が落としてきた爆弾発言。あの時、上茶谷は反射的にこう答えてしまった。
『何言ってるの。もう添い寝はだめでしょ』