第259話
文字数 669文字
「まりあと喧嘩をしようと思って追いかけてきたんじゃないの。話をしたいだけ」
上茶谷が呼吸を整えながらそう言ったけれど、高ぶってきた感情のまままりあはぶんぶんと首を振る。
「話なんて……もういいんです」
「いいって何がいいの?」
感情が抑えられなくなっているまりあとは対照的に、上茶谷はすでにいつもの落ち着いた様子に戻っている。それが余計、地団駄を踏みたくなるようなまりあのいら立ちを煽る。
「本当にいいんです! ……帰ります」
上茶谷に掴まれている手首を振り切って歩き出そうとしたら、今度は腕を掴まれた。
「帰るならさっき言っていた用事はないのでしょ? この後ご飯を食べながら話をさせてもらえない?」
子供をなだめるようにそう言われると、まりあのいら立ちは悲しみと相まってさらに泡立ち、抑えが効かなくなる。
「用事があるとか、ウソをついてごめんなさい。……でも今、ダイゴさんと一緒にご飯食べる気分じゃないんです。食べたくない!」
吐き出してしまった言葉は冷静さの欠片もないもので、まりあは我ながら情けなくなる。黙ってしまった二人の空間に数秒、街の喧騒だけが響く。上茶谷が掴んでいたまりあの腕をそっと離したから、反射的に顔をあげると心配そうにまりあを見つめる瞳がそこにあった。胸がチクリと痛む。
「わかったわ。お店、予約しちゃったからキャンセルの連絡を入れないとね。ちょっと待っていてくれる?」
上茶谷は穏やかな口調を崩さずにそう言って、スマホを取り出し電話をし始める。その様子を横で見ていたら、沸騰していたまりあの怒りは急速にトーンダウンしてしまう。
上茶谷が呼吸を整えながらそう言ったけれど、高ぶってきた感情のまままりあはぶんぶんと首を振る。
「話なんて……もういいんです」
「いいって何がいいの?」
感情が抑えられなくなっているまりあとは対照的に、上茶谷はすでにいつもの落ち着いた様子に戻っている。それが余計、地団駄を踏みたくなるようなまりあのいら立ちを煽る。
「本当にいいんです! ……帰ります」
上茶谷に掴まれている手首を振り切って歩き出そうとしたら、今度は腕を掴まれた。
「帰るならさっき言っていた用事はないのでしょ? この後ご飯を食べながら話をさせてもらえない?」
子供をなだめるようにそう言われると、まりあのいら立ちは悲しみと相まってさらに泡立ち、抑えが効かなくなる。
「用事があるとか、ウソをついてごめんなさい。……でも今、ダイゴさんと一緒にご飯食べる気分じゃないんです。食べたくない!」
吐き出してしまった言葉は冷静さの欠片もないもので、まりあは我ながら情けなくなる。黙ってしまった二人の空間に数秒、街の喧騒だけが響く。上茶谷が掴んでいたまりあの腕をそっと離したから、反射的に顔をあげると心配そうにまりあを見つめる瞳がそこにあった。胸がチクリと痛む。
「わかったわ。お店、予約しちゃったからキャンセルの連絡を入れないとね。ちょっと待っていてくれる?」
上茶谷は穏やかな口調を崩さずにそう言って、スマホを取り出し電話をし始める。その様子を横で見ていたら、沸騰していたまりあの怒りは急速にトーンダウンしてしまう。