第150話

文字数 745文字

 振り返るとナナが立っていた。

「わあ。びっくりした」

 彼女とまりあは在宅ワーク日が重なったりしていたせいで、最近ゆっくりと話す機会が無かった。

「その髪型、めちゃくちゃ可愛いですー! すごく似合ってる! あ、お世辞じゃないですよー。本気でいってますー」

 ナナはスタスタと歩いてきてちょこんとまりあの隣に腰掛けた。

「あ、ありがとう。わたしもすごく気に入ってるの」

 そう言って髪の毛に触れる。まりあの髪型は好評で、どこでもほめられたからまりあは素直に嬉しかった。その一方で髪型のことを言われると、どうしても上茶谷のことを思い出してしまう。そうしてまた悩んでしまうというスパイラルにも陥っていた。まりあがふうと吐息をつくと、ナナもあーあ、といってため息をついたから、ふたりして顔を見合わせて笑ってしまう。

「ふたり同時にため息ついちゃったね」

「板野さんはため息つく理由なんてあるんですかー? こんなに可愛くなって、坂口さんも喜んだだろうし」

 ちぇっといってふざけて口を尖らせたナナに、まりあは目を丸くする。

「え。ナナちゃん、何を言って……」

 ナナは驚いた表情を浮かべたまりあを真正面から見つめた。

「私、聞いちゃったんです。この前給湯室で板谷さんと坂口さんが話しているところ。それどころか、ドーナツをあーん、して食べさせてもらっているとこも、見てましたー」

「えっ!」

 まりあの顔がぴきーんとヒビが入りそうなほど硬直したのをみて、ナナは板谷さん凄い顔ですよーと言って困ったように笑った。

「私が給湯室に来た人を、回れ右させて交通整理してたんですよ。邪魔が入らないように。感謝してくださいねー」

「イヤイヤイヤ、ナナちゃん。あの、あれはね……」

 困り顔で説明しようとするまりあを制止して、ナナは軽く頭を振った。
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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