第129話
文字数 638文字
この気を遣わなくても全てを委ねられる圧倒的安心感。前回の添い寝のときは酔っ払っていたし、起きたら起きたで会社があるからと慌ててしまい、まりあはしっかりとこの感覚を味わうことができていなかった。
肌の感触。あたたかさ。心地良さが記憶を勝手に掘り起こし始めた時だった。
「何、考えているの?」
腕の力が少し緩められたから、まりあは無防備に顔をあげた。いきなり目に飛び込んできたのは、切れ長の瞳や、美しいラインの鼻梁、涼しげなカーブを描く唇。神様が妥協せず造形したような上茶谷の顔が、かつてないほど近くにあった衝撃で思わず後ろに転がって距離を取ってしまう。
「き、き、きっ……」
「なにそれ。猿のまね?」
揶揄うように上茶谷に言われてわざとムキーと叫んでから、文句を言う。
「違います! き、綺麗な顔が近すぎて……びっくりしたって言いたかったんです」
上茶谷が苦笑する。それからひとつため息をついて微笑んだ。
「私ね、顔が綺麗って言われるの好きじゃなかったんだけど……」
「あ、ごめんなさい。無神経に言ってしまって……」
慌てて謝ろうとするまりあの唇を上茶谷の指がそっと触れて押さえた。
「違うの。そうじゃなくて。顔が綺麗とかそういうことを言う人はたいてい、私に対してその対価を求めていたというか……。簡単言えば欲望が透けてみえててね。私はどこかでそれを醒めた目で見ていたの。だけどまりあは……」
上茶谷はそこで可笑しそうに笑う。
「本当に驚いた顔をしてそういうのよね。掛け値なしに驚きしかない」
肌の感触。あたたかさ。心地良さが記憶を勝手に掘り起こし始めた時だった。
「何、考えているの?」
腕の力が少し緩められたから、まりあは無防備に顔をあげた。いきなり目に飛び込んできたのは、切れ長の瞳や、美しいラインの鼻梁、涼しげなカーブを描く唇。神様が妥協せず造形したような上茶谷の顔が、かつてないほど近くにあった衝撃で思わず後ろに転がって距離を取ってしまう。
「き、き、きっ……」
「なにそれ。猿のまね?」
揶揄うように上茶谷に言われてわざとムキーと叫んでから、文句を言う。
「違います! き、綺麗な顔が近すぎて……びっくりしたって言いたかったんです」
上茶谷が苦笑する。それからひとつため息をついて微笑んだ。
「私ね、顔が綺麗って言われるの好きじゃなかったんだけど……」
「あ、ごめんなさい。無神経に言ってしまって……」
慌てて謝ろうとするまりあの唇を上茶谷の指がそっと触れて押さえた。
「違うの。そうじゃなくて。顔が綺麗とかそういうことを言う人はたいてい、私に対してその対価を求めていたというか……。簡単言えば欲望が透けてみえててね。私はどこかでそれを醒めた目で見ていたの。だけどまりあは……」
上茶谷はそこで可笑しそうに笑う。
「本当に驚いた顔をしてそういうのよね。掛け値なしに驚きしかない」