第265話
文字数 700文字
あの時の気持ち、苦しさがじわりとまりあの心にのしかかってきたから俯いてそれに耐える。すると視線の先、目の前のカーペットに淡い影が映った。顔をあげると上茶谷が目の前に立っていた。彼の表情を見る前にまりあの頭の上に手のひらがそっと置かれたから。優しいその感触にまりあは猫のように目を細めてしまう。
「まりあの言った通り、私の性的嗜好 は男性しか愛せないもので……多分これからもそれは変わらないだろうって思ってる」
上茶谷の言葉にまりあの表情が微かに歪む。そんなまりあに寄り添うように、上茶谷が膝を少し落として視線を合わせる。俯き加減になっている彼女の瞳を覗きこむようにして語りかける。
「それなのに私さっきね、まりあが私たちのことを見て泣きながら走っていってしまった時、嬉しいって感じてた。あんなにショックを受けるほどまりあは私のことを想ってくれているんだって思ったら、指先が痺れてしまうくらい心が震えたわ。追いかけて捕まえた時もそう。普段は我儘もいわないで周りに気を遣うまりあが、私には駄々をこねて怒り出して。そういう感情をすべてみせてくれるあなたが愛おしかった」
驚きでゆっくりと目を見開いていくまりあに、上茶谷が柔らかな笑みを浮かべた。
「蒼佑とは……前にも話をしたけれど嫌いで別れたわけじゃない。今だって仕事を一緒にしていても意思疎通も早いし気もつかわないし、いい関係だと思ってる。でも……あんなふうに抱きしめられても私の中ではもう、昔のように感情を揺さぶられたりしなかった。それはあの人もわかってる」
まりあは小さく口をあけるけれど言葉がでてこない。浅い呼吸しかできない。上茶谷はそのまま話を続ける。
「まりあの言った通り、私の
上茶谷の言葉にまりあの表情が微かに歪む。そんなまりあに寄り添うように、上茶谷が膝を少し落として視線を合わせる。俯き加減になっている彼女の瞳を覗きこむようにして語りかける。
「それなのに私さっきね、まりあが私たちのことを見て泣きながら走っていってしまった時、嬉しいって感じてた。あんなにショックを受けるほどまりあは私のことを想ってくれているんだって思ったら、指先が痺れてしまうくらい心が震えたわ。追いかけて捕まえた時もそう。普段は我儘もいわないで周りに気を遣うまりあが、私には駄々をこねて怒り出して。そういう感情をすべてみせてくれるあなたが愛おしかった」
驚きでゆっくりと目を見開いていくまりあに、上茶谷が柔らかな笑みを浮かべた。
「蒼佑とは……前にも話をしたけれど嫌いで別れたわけじゃない。今だって仕事を一緒にしていても意思疎通も早いし気もつかわないし、いい関係だと思ってる。でも……あんなふうに抱きしめられても私の中ではもう、昔のように感情を揺さぶられたりしなかった。それはあの人もわかってる」
まりあは小さく口をあけるけれど言葉がでてこない。浅い呼吸しかできない。上茶谷はそのまま話を続ける。