第100話
文字数 790文字
まりあはほんの少し肩を揺らせてなにかを言いたげな表情をみせたものの、すぐにないですといつもどおり微笑んだ。まりあの笑顔に上茶谷の心はやはり和む。けれどそれは、睨むように上茶谷に視線を向けている坂口にとっても同じなのだろう。
彼とまりあを見て初めて、上茶谷はまりあと自分の関係について意識した。隣人または友人になるのだろうかと。胸の奥にちくりと痛みが走る。それは物理的な痛みではなく、心に針で小さな穴を開けられたような痛みだった。その瞬間、上茶谷は無意識に手を伸ばしてまりあの髪に触れていた。
「ダイゴさん?」
まりあは不思議そうに首を傾げたけれど髪にふれても嫌な顔はしない。むしろその瞳は心地よさそうにゆっくりと潤んできたから、上茶谷の指先が火花が散ったようにチリッと痺れた。
「店 にくるの、明後日の午前中だったわね?」
その感覚にあえて気づかないフリをしてさりげなく会話をする。美容師だから髪に触れてもおかしくはない。それでも坂口の前で彼に見せつけるようにまりあに触れている自分は、どこか変だと上茶谷は思う。
「あ、そうです。十一時でしたよね。遅れないように行きますね」
まりあが照れたように微笑んでそういって頷く。
「かわいくしてあげる。楽しみにしてて」
一呼吸おいて髪の毛からそっと手を離す。まりあもその感触を名残惜しむように目を細めて上茶谷を見上げた。
「めちゃくちゃ楽しみです」
触れるだけで思っていることが通じあっているような不思議な感覚に陥る。けれどそんなものは錯覚にすぎない。かるく首を振って上茶谷は微笑んだ。
「それじゃ明後日店で待ってるわ。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
坂口にも会釈すると、彼もどこか憮然とした表情のまま軽く頭をさげた。二人を残したままアパートの階段をのぼり自分の部屋に入ってカギをかけたところで、上茶谷はドアによりかかり大きなため息ついた。
彼とまりあを見て初めて、上茶谷はまりあと自分の関係について意識した。隣人または友人になるのだろうかと。胸の奥にちくりと痛みが走る。それは物理的な痛みではなく、心に針で小さな穴を開けられたような痛みだった。その瞬間、上茶谷は無意識に手を伸ばしてまりあの髪に触れていた。
「ダイゴさん?」
まりあは不思議そうに首を傾げたけれど髪にふれても嫌な顔はしない。むしろその瞳は心地よさそうにゆっくりと潤んできたから、上茶谷の指先が火花が散ったようにチリッと痺れた。
「
その感覚にあえて気づかないフリをしてさりげなく会話をする。美容師だから髪に触れてもおかしくはない。それでも坂口の前で彼に見せつけるようにまりあに触れている自分は、どこか変だと上茶谷は思う。
「あ、そうです。十一時でしたよね。遅れないように行きますね」
まりあが照れたように微笑んでそういって頷く。
「かわいくしてあげる。楽しみにしてて」
一呼吸おいて髪の毛からそっと手を離す。まりあもその感触を名残惜しむように目を細めて上茶谷を見上げた。
「めちゃくちゃ楽しみです」
触れるだけで思っていることが通じあっているような不思議な感覚に陥る。けれどそんなものは錯覚にすぎない。かるく首を振って上茶谷は微笑んだ。
「それじゃ明後日店で待ってるわ。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
坂口にも会釈すると、彼もどこか憮然とした表情のまま軽く頭をさげた。二人を残したままアパートの階段をのぼり自分の部屋に入ってカギをかけたところで、上茶谷はドアによりかかり大きなため息ついた。