第112話

文字数 801文字

「私、ここのオーナーでリカコといいます。どうぞよろしく」

「オーナーさん! 板野まりあです。よろしくお願いします」

 オーナー美容師の風格に圧倒されつつまりあはぺこりと頭を下げた。

「あー、やっぱりあなただ。まりあちゃん」

「へ?」

 まりあが首を傾げるとリカコがにやりと笑った。

「上島くんがマークしてる人物」

「……上島さん……えーと……蒼佑さん、ですか?」

 確か彼の苗字は上島だったと思い出しながらそういうと、リカコはそうそう上島蒼佑くんと言って楽しげに頷く。

「カミちゃんとあなたが仲が良すぎるって妬いてるみたいよ?」

 まりあは慌てて首を振る。

「いやー、仲がいいというか……ダイゴさんは出来の悪い妹の面倒をみてくれている感じです……」

 自分で言っていてたしかに妹みたいだ、とまりあは力なく笑ってしまう。

「あら、それを言うなら私もカミちゃんの姉だわ。でもあんなキレイな顔の弟なんて、私の両親からは産まれそうもないけど」

「あ! それはウチも同じです」

 そう言ったあと、二人で顔を見合わせて笑う。

「まあ、気持ちとしてはホントに姉なの。綺麗で出来のいい弟みたいな……」

 リカコはどこか翳りを感じさせる笑みを浮かべ遠くを見たあと後、笑いながら首を振った。

「カミちゃんは人に気を遣いすぎるからね」

「え?」

「彼、本音はなかなか言わないの」

 リカコがまりあの瞳を見つめた。鏡越しでわかる強い視線。

「……あなたになら言えるのかな?」

 心の中まで見透かすような瞳でそう呟いた。リカコの視線、言葉が光のようにまりあの心にすっと差しこんで、何か大事なものを照らした気がした。

(ダイゴさんの本音……?)

 ふたりの会話が途切れたのを見計らったように、近くでカラーリングの時間を測っていたタイマーが鳴った。

「リカコさん、今日お店に来る日でしたっけ?」

 早足で歩いてきた上茶谷がタイマーを止めて、リカコに話しかけると彼女は楽しそうに笑った。
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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