第44話
文字数 875文字
「とにかくお金のことは気にしないで。カットモデルとしてやるから大丈夫」
実際今日のうどんは二万円どころかそれ以上の価値があった。上茶谷の心をこんなにも軽くしてくれたのだ。
「まりあの都合のいい日あとで送っといて」
メッセージアプリのIDを交換してそう伝えると、まりあは恐縮したように頭を下げた。
「……たかがうどんなのに、申し訳ないですけどじゃあ遠慮なく」
「たかがうどんって、うどんだからよかったのに」
「……ダイゴさん、そこまでうどん好きだったんですか?」
「そうじゃなくて、今日このタイミングがうどんだったの!」
そんな調子で二人の掛け合いは続き、皿や鍋をどちらが洗うかで揉めたりしていたら、あっと言う間に夜の十時半を過ぎていた。疲れているんだからダイゴさんは寝る時間です! まりあにそう追い立てられて部屋に戻ることになるなんて。ここに来た当初は思いもよらなかったと上茶谷は苦笑した。
「うどんごちそうさま。本当に美味しかったわ」
玄関まで見送りに来たまりあに上茶谷は清々しい笑顔をみせる。まりあはそれを眩しそうに見つめ照れたように笑った。
「好評ならまた作りますよ。今度はきしめんにしようかな」
「別に麺にこだわらなくていいから」
まりあはいいじゃないですかとニコニコ笑う。彼女と話していると、気を遣っているわけでもないのに話が途切れない。途切れたのはまりあが高速でうどんを啜っていたときだけだと上茶谷はまた笑いそうになった。
「じゃあスケジュールわかったらメッセージ送ってね」
「はーい! 会社いって日程チェックして、すぐにおくります」
それぞれおやすみなさいといい合ったあと、上茶谷は部屋のドアを閉めて外にでた。冷たい空気が火照った頬を気持ちよく撫でる。見上げると三日月がほんわりとした優しい光を放って微笑みかけてきた。そういえばと上茶谷は思う。最初あれほど気になっていた消毒液の匂いがわからなくなっていた。
(まりあの鼻と一緒に麻痺したわ)
またこみあげてきた笑い。その笑みを浮かべたまま自分の部屋へと身体をむけたその瞬間 だった。上茶谷は大きく瞳を見開いた。
実際今日のうどんは二万円どころかそれ以上の価値があった。上茶谷の心をこんなにも軽くしてくれたのだ。
「まりあの都合のいい日あとで送っといて」
メッセージアプリのIDを交換してそう伝えると、まりあは恐縮したように頭を下げた。
「……たかがうどんなのに、申し訳ないですけどじゃあ遠慮なく」
「たかがうどんって、うどんだからよかったのに」
「……ダイゴさん、そこまでうどん好きだったんですか?」
「そうじゃなくて、今日このタイミングがうどんだったの!」
そんな調子で二人の掛け合いは続き、皿や鍋をどちらが洗うかで揉めたりしていたら、あっと言う間に夜の十時半を過ぎていた。疲れているんだからダイゴさんは寝る時間です! まりあにそう追い立てられて部屋に戻ることになるなんて。ここに来た当初は思いもよらなかったと上茶谷は苦笑した。
「うどんごちそうさま。本当に美味しかったわ」
玄関まで見送りに来たまりあに上茶谷は清々しい笑顔をみせる。まりあはそれを眩しそうに見つめ照れたように笑った。
「好評ならまた作りますよ。今度はきしめんにしようかな」
「別に麺にこだわらなくていいから」
まりあはいいじゃないですかとニコニコ笑う。彼女と話していると、気を遣っているわけでもないのに話が途切れない。途切れたのはまりあが高速でうどんを啜っていたときだけだと上茶谷はまた笑いそうになった。
「じゃあスケジュールわかったらメッセージ送ってね」
「はーい! 会社いって日程チェックして、すぐにおくります」
それぞれおやすみなさいといい合ったあと、上茶谷は部屋のドアを閉めて外にでた。冷たい空気が火照った頬を気持ちよく撫でる。見上げると三日月がほんわりとした優しい光を放って微笑みかけてきた。そういえばと上茶谷は思う。最初あれほど気になっていた消毒液の匂いがわからなくなっていた。
(まりあの鼻と一緒に麻痺したわ)
またこみあげてきた笑い。その笑みを浮かべたまま自分の部屋へと身体をむけたその