第178話
文字数 705文字
「だいじょうぶよ。引っ越しやさんが荷造りから荷ほどきまで全部やってくれて、私は見ているだけだから。荷物もそれほどないし。まりあが会社を休むほどのことではないから気持ちだけ頂くわ。ありがとう」
まるでもうまりあはいらない、そう言われているような気持ちになってまた泣きそうになる。けれどまりあはむりやり笑顔を浮かべて、涙を強制的にひっこめた。
「そ、そうなんですね。わかりました」
そういってちらりと上島を見てから微笑んだ。
「邪魔しちゃ悪いので、わたしは……その、部屋に戻ります。じゃあ引っ越し前にはまた挨拶しにいきますね」
「……私から挨拶にいくわ」
まりあは上茶谷に笑顔を貼り付けたまま頷いてみせたけれど、彼の瞳はどこか心配そうに彼女をみつめていた。その視線をむりやり断ち切って、じゃあおやすみなさいと言いながらくるりとふりかえって、まりあは部屋のなかに飛び込んで鍵をかけた。かちゃりと響いた音がまりあと上茶谷の世界をくっきりと分ける合図みたいな気がして、玄関にしゃがみこんで両手で顔を覆った。
(泣かない。泣かない。泣かない)
自分に言い聞かせるように心の中で何度も呟く。こんなことで泣いたりするのはおかしいと、何度も自分を叱咤する。上茶谷は女性を愛することができないひとだということはわかっていたはずだ。それでも彼もできうるぎりぎりまでまりあに好意を寄せてくれた。今だってそうだ。あんなに心配そうな顔をして、まりあを見ていたではないか。彼はいつでもまりあを気遣い、優しくしてくれる。
その彼が、上島とやり直そうとしているのだ。ちゃんと笑って祝福してあげなくてはいけない。
まるでもうまりあはいらない、そう言われているような気持ちになってまた泣きそうになる。けれどまりあはむりやり笑顔を浮かべて、涙を強制的にひっこめた。
「そ、そうなんですね。わかりました」
そういってちらりと上島を見てから微笑んだ。
「邪魔しちゃ悪いので、わたしは……その、部屋に戻ります。じゃあ引っ越し前にはまた挨拶しにいきますね」
「……私から挨拶にいくわ」
まりあは上茶谷に笑顔を貼り付けたまま頷いてみせたけれど、彼の瞳はどこか心配そうに彼女をみつめていた。その視線をむりやり断ち切って、じゃあおやすみなさいと言いながらくるりとふりかえって、まりあは部屋のなかに飛び込んで鍵をかけた。かちゃりと響いた音がまりあと上茶谷の世界をくっきりと分ける合図みたいな気がして、玄関にしゃがみこんで両手で顔を覆った。
(泣かない。泣かない。泣かない)
自分に言い聞かせるように心の中で何度も呟く。こんなことで泣いたりするのはおかしいと、何度も自分を叱咤する。上茶谷は女性を愛することができないひとだということはわかっていたはずだ。それでも彼もできうるぎりぎりまでまりあに好意を寄せてくれた。今だってそうだ。あんなに心配そうな顔をして、まりあを見ていたではないか。彼はいつでもまりあを気遣い、優しくしてくれる。
その彼が、上島とやり直そうとしているのだ。ちゃんと笑って祝福してあげなくてはいけない。
大事な友達
として。泣くなんておかしい。