第114話
文字数 654文字
「さ。終わった。椅子、おこすわね」
髪の毛をタオルでふいてもらっている間、まりあは何度か呼吸して気持ちを落ち着かせる。二人の距離を遠ざけるような沈黙がまだ、そこに居座っていた。出会った当初から上茶谷と会話することは息を吸うようにできていたはずなのに。まりあは吐息をついて気合いを入れ直す。
フロアに戻って最後の仕上げをしてくれているときもとにかく上茶谷に喋りかけた。いつものように。そう思うと余計上手く話せないような気がしたけれど、ドライヤーの音に負けない勢いで、まりあは話し続けた。ドライヤーの音が止む。上茶谷が笑いながら言った。
「おしゃべりまりあさん」
その声はまりあを慰撫するように耳に響く。それから彼は髪をやさしく触った。
「できたわよ。どう?」
喋ることに夢中になっていて、鏡をよくみていなかった。まりあはゆっくりと鏡に映る自分を見つめる。鎖骨の下くらいにあった直線的な印象の、ぱさついていた毛先は、肩のあたりでふわふわとウェーブを描いて、顔の輪郭を柔らかに縁取っている。髪の色も明るすぎない優しいミルクティー色で、まりあの肌色によく映えている。固い印象が一気に取り払われ、可愛らしさと透明感が際立ち、一気に垢抜けた印象になった自分が鏡のなかから見つめ返してくる。
「……すごい」
まりあが呟くと、上茶谷がヘアワックスをつけながら微笑んだ。
「気に入ってくれた?」
まりあがこくこくと何度も首を上下にふると、上茶谷が吹き出した。
「良かった」
そういって安心したように笑う上茶谷を、まりあは一心に見つめる。
髪の毛をタオルでふいてもらっている間、まりあは何度か呼吸して気持ちを落ち着かせる。二人の距離を遠ざけるような沈黙がまだ、そこに居座っていた。出会った当初から上茶谷と会話することは息を吸うようにできていたはずなのに。まりあは吐息をついて気合いを入れ直す。
フロアに戻って最後の仕上げをしてくれているときもとにかく上茶谷に喋りかけた。いつものように。そう思うと余計上手く話せないような気がしたけれど、ドライヤーの音に負けない勢いで、まりあは話し続けた。ドライヤーの音が止む。上茶谷が笑いながら言った。
「おしゃべりまりあさん」
その声はまりあを慰撫するように耳に響く。それから彼は髪をやさしく触った。
「できたわよ。どう?」
喋ることに夢中になっていて、鏡をよくみていなかった。まりあはゆっくりと鏡に映る自分を見つめる。鎖骨の下くらいにあった直線的な印象の、ぱさついていた毛先は、肩のあたりでふわふわとウェーブを描いて、顔の輪郭を柔らかに縁取っている。髪の色も明るすぎない優しいミルクティー色で、まりあの肌色によく映えている。固い印象が一気に取り払われ、可愛らしさと透明感が際立ち、一気に垢抜けた印象になった自分が鏡のなかから見つめ返してくる。
「……すごい」
まりあが呟くと、上茶谷がヘアワックスをつけながら微笑んだ。
「気に入ってくれた?」
まりあがこくこくと何度も首を上下にふると、上茶谷が吹き出した。
「良かった」
そういって安心したように笑う上茶谷を、まりあは一心に見つめる。