第137話
文字数 847文字
「とりあえず。仕事の話をする前に聞きたいことがあるんだけど」
対面のソファに座った上島が自分の膝を指で叩きながら、上茶谷をじっと見てきたから、表情も変えずに頷く。
「なに?」
「なーんであの夜、電話にでなかったわけ?」
あえて冗談めかした口調でいってきた上島に、上茶谷はおもわず笑ってしまう。以前つきあっていたときはこんなふうに彼が上茶谷の行動を確認することはほとんどなかった。
上茶谷はラリュールの共同経営について話し合うために上島の会社に来ていた。彼の会社は渋谷にある高層ビルのワンフロアにあって、オープンスペース仕様だ。応接室の仕切りもガラス張りだからフロアすべてが見渡せるようになっている。仕事場の風景を見つめながら、上茶谷は答えを考える。
まりあと添寝したあの夜に上島から何回も着信があった。翌朝コールバックしたら微かに不機嫌さがにじみ出た声でワンコールで出て来て、今回の打ち合わせを打診された。電話はすぐに切れたから、打ち合わせの場でなにかしら聞かれることを予測はしていたけれど、会っていきなりくるかと上茶谷は苦笑するしかない。
「たまたま。はやく寝ていただけ」
肩を竦めてそう答え軽く微笑む。その言葉に嘘はない。まりあを抱きしめて寝た。ただそれだけだ。けれど二人の関係はさらに濃密なったように感じていた。ただしこれが恋と呼べるかはわからないと上茶谷は思う。普通の恋はひりつくような恋愛感情から愛情へと時間とともに変わるものかもしれない。けれどまりあには出会ったときから愛情が溶け込んだ感情を抱き、時間がたつにつれてそれがどんどん濃度を濃くしていく感覚だ。こういう感情を抱ける相手は、まりあ以外には生涯を通じて出会えないかもしれない。そう思うほど彼女の存在は貴重なのに恋人ではない。だからこそ二人の関係は脆く壊れやすい。
上島は大きなため息をついて上茶谷の顔をまじまじと見つめてきた。彼の纏う雰囲気が変わったことを敏感に気がついている。微弱電流のようにそれが伝わってきて上茶谷は苦笑する。
対面のソファに座った上島が自分の膝を指で叩きながら、上茶谷をじっと見てきたから、表情も変えずに頷く。
「なに?」
「なーんであの夜、電話にでなかったわけ?」
あえて冗談めかした口調でいってきた上島に、上茶谷はおもわず笑ってしまう。以前つきあっていたときはこんなふうに彼が上茶谷の行動を確認することはほとんどなかった。
上茶谷はラリュールの共同経営について話し合うために上島の会社に来ていた。彼の会社は渋谷にある高層ビルのワンフロアにあって、オープンスペース仕様だ。応接室の仕切りもガラス張りだからフロアすべてが見渡せるようになっている。仕事場の風景を見つめながら、上茶谷は答えを考える。
まりあと添寝したあの夜に上島から何回も着信があった。翌朝コールバックしたら微かに不機嫌さがにじみ出た声でワンコールで出て来て、今回の打ち合わせを打診された。電話はすぐに切れたから、打ち合わせの場でなにかしら聞かれることを予測はしていたけれど、会っていきなりくるかと上茶谷は苦笑するしかない。
「たまたま。はやく寝ていただけ」
肩を竦めてそう答え軽く微笑む。その言葉に嘘はない。まりあを抱きしめて寝た。ただそれだけだ。けれど二人の関係はさらに濃密なったように感じていた。ただしこれが恋と呼べるかはわからないと上茶谷は思う。普通の恋はひりつくような恋愛感情から愛情へと時間とともに変わるものかもしれない。けれどまりあには出会ったときから愛情が溶け込んだ感情を抱き、時間がたつにつれてそれがどんどん濃度を濃くしていく感覚だ。こういう感情を抱ける相手は、まりあ以外には生涯を通じて出会えないかもしれない。そう思うほど彼女の存在は貴重なのに恋人ではない。だからこそ二人の関係は脆く壊れやすい。
上島は大きなため息をついて上茶谷の顔をまじまじと見つめてきた。彼の纏う雰囲気が変わったことを敏感に気がついている。微弱電流のようにそれが伝わってきて上茶谷は苦笑する。