第163話
文字数 625文字
「ヤナセくん、私の次の予約、高橋様だったわよね?」
受付に置いてあるパソコンで予約をチェックしていた上茶谷が、アシスタントのヤナセに声をかける。彼は店 の予約状況を一番把握している。客が施術中にみるタブレット画面を消毒していたヤナセはあれ? と言いながらカウンターに早足でやってきた。
「昨日の夜、高橋様はたしかキャンセルになってたはずです。そこの枠に新規のお客様の予約がはいっていた気がするんですが」
「新規のお客様……」
上茶谷が予約者情報をクリックしようとしたその時だった。店の扉があいてヤナセがいらっしゃいませ、と声をかけた。
「予約した坂口といいます」
その声をきいて上茶谷が顔をあげる。スーツを着た見覚えのある若い男がまっすぐに彼をみつめていた。間違いない。まりあと一緒にいた男だ。上茶谷は瞳を細め、彼を観察するようにじっと見る。アパートの前であったときは、暗くてはっきりはみえなかったけれど、明るい店の中でみるとなかなか整った顔立ちをした青年だ。そしてやはり若い。けれどその瞳はあの時感じた印象のまま、いやそれ以上に鋭いものに感じられた。上茶谷の中身を取り出してみてやろう。それくらいの殺気すら漂う。
「……いらっしゃいませ」
挑むような視線を投げかけてくる坂口に対して、上茶谷は静かな微笑みを浮かべて見つめ返す。どこか張り詰めた空気が漂うふたりの様子を、ヤナセが不思議そうな顔をして見比べているのを感じて、上茶谷はすぐにいつも通りに声をかけた。
受付に置いてあるパソコンで予約をチェックしていた上茶谷が、アシスタントのヤナセに声をかける。彼は
「昨日の夜、高橋様はたしかキャンセルになってたはずです。そこの枠に新規のお客様の予約がはいっていた気がするんですが」
「新規のお客様……」
上茶谷が予約者情報をクリックしようとしたその時だった。店の扉があいてヤナセがいらっしゃいませ、と声をかけた。
「予約した坂口といいます」
その声をきいて上茶谷が顔をあげる。スーツを着た見覚えのある若い男がまっすぐに彼をみつめていた。間違いない。まりあと一緒にいた男だ。上茶谷は瞳を細め、彼を観察するようにじっと見る。アパートの前であったときは、暗くてはっきりはみえなかったけれど、明るい店の中でみるとなかなか整った顔立ちをした青年だ。そしてやはり若い。けれどその瞳はあの時感じた印象のまま、いやそれ以上に鋭いものに感じられた。上茶谷の中身を取り出してみてやろう。それくらいの殺気すら漂う。
「……いらっしゃいませ」
挑むような視線を投げかけてくる坂口に対して、上茶谷は静かな微笑みを浮かべて見つめ返す。どこか張り詰めた空気が漂うふたりの様子を、ヤナセが不思議そうな顔をして見比べているのを感じて、上茶谷はすぐにいつも通りに声をかけた。