第33話

文字数 898文字

「じゃあ余計な気力、使わないでください。ついでに言うとわたしの部屋に入る入らない論争ですが」

 そこでいったん言葉を切って空気を吸い込み一気に話す。

「カミ、カミチャタニさんはいきなり襲ってきたりする強姦魔や殺人鬼じゃないと百%確信しているから部屋に招いているんです。もしそれでカミチャタニさんに襲われたとしたら、それはもう百%自己責任です。もう三十一なんだし甘んじて襲われます! あ、待って! これはですね、襲って下さいっていう意味で言っているんじゃないですよ? つまりそれくらいの覚悟ってことです」

 まりあが一気にそこまでしゃべると上茶谷は今までみたことがないほど大きく瞳を見開いた。それからふと俯いた。肩が小刻みに揺れている。

「カミ、カミチャタニさん?」

 まりあが心配になって彼の顔を覗き込むと、涙をながして大笑いをしていた。彼は苦しそうに笑い続けながら口を開いた。

「……ちょっと待ってよ。私が襲うよりもまりあに襲われる可能性のほうが高くない? あなたの部屋なんだし。しかもやたら強引に誘ってくるし」

「はあ?! そんなこと絶対するわけないじゃないですか!」

 つい大声をだしてしまい、静かな住宅街にまりあの声がびんびん響いたから、上茶谷がすぐにしい! といって人差し指を口に当てた。まりあも慌てて口をつぐむ。

「わかったわ。そこまでまりあがどうしても食べてほしいっていうくらいだもの、ご自慢のうどん、食べさせて貰わないとね」

 なんとか笑いを収めた上茶谷がからかうようにそういうと、瞬間的にまりあの顔がぱあっと笑顔になった。けれどまたちょっと何かを考えるように視線を泳がせたあと口をヘの字にした。

「食べて貰えるのは嬉しいですけど……、それってさり気なくうどんのハードルをあげてますよね? いや、美味しいですよ。美味しいですけど、それはあくまでわたしの基準ですから、カミ、カミチャタニさんのお口にあうかは保障できな……。いや、もうなんて言われようといいですから、とりあえず食べてみてください。クレームはその時受け付けます」

 上茶谷はまた笑いだしたそうに顔を歪めたけれど、誤魔化すように軽く咳払いをした。
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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