第260話
文字数 717文字
三十を過ぎた大人ならば落ち着いて相手の話を聞き、それから自分の考えを話すべきだとまりあもわかっているし、実際そうしてきたつもりだった。彼氏と別れ話をした時だって今よりずっと冷静に話ができていた。
しかも上茶谷とは付き合っているわけでもない。友人であり同居人なのだ。話もろくすっぽ聞かずに逃げだしたまりあを追いかけてくれたその人に、感情をぶつけて当たり散らすなんて大人がする事ではない。まりあがひとりで反省会をしていると、通話を終えた上茶谷がスマホを何度かタップし顔をあげて微笑んだ。
「キャンセルできたから大丈夫よ」
「……すいませんでした。折角予約してくださったのに」
まりあは頭を下げ、おずおずと顔をあげると、目の前の人は気にする様子もなく首を振る。
「今度またいけばいいから。その時は付き合ってね」
先ほど見てしまった場面 のショックが火花のように瞬くものの、まりあの激情は完全に萎んでしまった。後に残ったのは、自分の情けない態度への後悔、そしてこの人はどうしてこんなに優しいのだろうという悲しみが入り混じった切なさだった。
まりあのそんな複雑な胸の内をわかっているのかいないのか。上茶谷はじゃあ行きましょうかと何事もなかったように言って、ごく自然にまりあの手を取って歩き出した。
「へっ?」
驚きでまりあはへんな声を出してしまう。この流れでどうして上茶谷はまりあと手を繋ぐのか。さらに言えば豊洲のマンションに帰るとしたら乗り換えなしで帰れる銀座一丁目駅に向かうべきなのに、真逆の方角に歩き出したのだ。
「ダイゴさん」
まりあの手を引いて歩いていく人の背中に声をかけると、立ち止まり振り返った。
「なに?」
「あの、なんで手を繋ぐんですか?」
しかも上茶谷とは付き合っているわけでもない。友人であり同居人なのだ。話もろくすっぽ聞かずに逃げだしたまりあを追いかけてくれたその人に、感情をぶつけて当たり散らすなんて大人がする事ではない。まりあがひとりで反省会をしていると、通話を終えた上茶谷がスマホを何度かタップし顔をあげて微笑んだ。
「キャンセルできたから大丈夫よ」
「……すいませんでした。折角予約してくださったのに」
まりあは頭を下げ、おずおずと顔をあげると、目の前の人は気にする様子もなく首を振る。
「今度またいけばいいから。その時は付き合ってね」
先ほど見てしまった
まりあのそんな複雑な胸の内をわかっているのかいないのか。上茶谷はじゃあ行きましょうかと何事もなかったように言って、ごく自然にまりあの手を取って歩き出した。
「へっ?」
驚きでまりあはへんな声を出してしまう。この流れでどうして上茶谷はまりあと手を繋ぐのか。さらに言えば豊洲のマンションに帰るとしたら乗り換えなしで帰れる銀座一丁目駅に向かうべきなのに、真逆の方角に歩き出したのだ。
「ダイゴさん」
まりあの手を引いて歩いていく人の背中に声をかけると、立ち止まり振り返った。
「なに?」
「あの、なんで手を繋ぐんですか?」