第119話
文字数 754文字
上茶谷の言葉に、まりあはビクッと身体を震わせて悲しげに上茶谷を見つめたけれど、咄嗟に言葉が出て来なかった。沈黙は数秒だったかもしれない。けれどすれ違って遠ざかる車同士のように、まりあとの距離が開いていくような感覚に陥った。まりあが、ぎこちなく明るい笑顔を浮かべてみせたからだ。
『そうですよね。すいません、馬鹿なことを言って。忘れてください』
そうして、何事もなかったかのように、この髪型が気に入ったこと。会社にいってみんなに見せるのが楽しみなことなど、上茶谷に話しかける間も与えずしゃべり続け礼を言っていそいそと帰ってしまった。まりあはなぜ急に、添い寝をしようなどと言い出したのか。わかりそうでわからない。けれど上茶谷は、自分が間違った反応をしてしまったことだけはわかった。
(あんな言い方をすべきじゃなかったのに)
いつもの上茶谷なら、断るにしても、もっと角のたたない言い方ができたはずだ。それができなかったのは動揺してしまったからに他ならない。
上茶谷はスマホをとりだして、アルバムのフォルダをクリックする。そこにはカットモデルとして、ヤナセが撮ったまりあの写真があった。
「まりあって写真を撮られるの、あまり得意じゃないわよね」
モデルとしてはすこし硬い、生真面目な表情をみて上茶谷はつい笑ってしまう。それでも彼女のイメージを頭のなかで何度も反芻して、丁寧に創り上げた髪型 は、我ながらまりあにとてもよく似合っていると思う。
柔らかな人当たり。小鳥みたいにちょこちょこ動き回るコミカルな体の動き。驚いたときや楽しいときに真ん丸にして見つめてくる瞳。彼女の優しさ。可愛らしさ。それら彼女のイメージを表現したつもりだ。そこまで考えて髪型をつくることは、コンテストや特別な撮影などの特殊な事情がない限りあまりない。
『そうですよね。すいません、馬鹿なことを言って。忘れてください』
そうして、何事もなかったかのように、この髪型が気に入ったこと。会社にいってみんなに見せるのが楽しみなことなど、上茶谷に話しかける間も与えずしゃべり続け礼を言っていそいそと帰ってしまった。まりあはなぜ急に、添い寝をしようなどと言い出したのか。わかりそうでわからない。けれど上茶谷は、自分が間違った反応をしてしまったことだけはわかった。
(あんな言い方をすべきじゃなかったのに)
いつもの上茶谷なら、断るにしても、もっと角のたたない言い方ができたはずだ。それができなかったのは動揺してしまったからに他ならない。
上茶谷はスマホをとりだして、アルバムのフォルダをクリックする。そこにはカットモデルとして、ヤナセが撮ったまりあの写真があった。
「まりあって写真を撮られるの、あまり得意じゃないわよね」
モデルとしてはすこし硬い、生真面目な表情をみて上茶谷はつい笑ってしまう。それでも彼女のイメージを頭のなかで何度も反芻して、丁寧に創り上げた
柔らかな人当たり。小鳥みたいにちょこちょこ動き回るコミカルな体の動き。驚いたときや楽しいときに真ん丸にして見つめてくる瞳。彼女の優しさ。可愛らしさ。それら彼女のイメージを表現したつもりだ。そこまで考えて髪型をつくることは、コンテストや特別な撮影などの特殊な事情がない限りあまりない。