第272話
文字数 597文字
「ま、まりあさーん、大丈夫ですかー!?」
ナナは慌てて席を立ちまりあの後ろにまわって背中をさする。まりあは途絶え途絶えにだいじょうぶ、という言葉を繰り返してナナを席に座らせた。咳き込みがようやく落ち着いたところで、まりあが苦笑しながら口を開いた。
「ああ、苦しかった」
「すいません。いきなりヘンなことを言ってしまって。びっくりしちゃいますよねー」
「ううん大丈夫。それよりナナちゃんはどうして彼がゲイだと思ったの?」
不意にまりあが見せた真剣な瞳にナナは恐縮しながら答える。
「大学の時ですけど、……人生で一番好きになって付き合った人に、男しか好きになれない人間だからって振られたんです。その彼にまりあさんの彼氏さんが似てるような気がしたんで思わず聞いてしまいました。余計なことを言ってすいません! 忘れてください!」
がばっと頭を下げたナナは思い出をたぐりよせる。その人は大学の先輩で溺れるようにナナが愛した人だった。繊細さが滲み出る綺麗な所作も、目尻が優しくさがって形作られる儚い虹みたいな綺麗な笑顔も、いまだにナナの瞼の裏に克明に焼き付いている。その元彼の雰囲気とまりあの恋人が驚くほど似ていたのだ。
そうはいってもさすがに一言多すぎたとナナは猛省する。さげた頭を恐る恐るあげるとまりあは気を悪くした様子もみせず、ただ遠い目をしてどこかを見ていた。それから視線をナナに向けて首を振って微笑んだ。
ナナは慌てて席を立ちまりあの後ろにまわって背中をさする。まりあは途絶え途絶えにだいじょうぶ、という言葉を繰り返してナナを席に座らせた。咳き込みがようやく落ち着いたところで、まりあが苦笑しながら口を開いた。
「ああ、苦しかった」
「すいません。いきなりヘンなことを言ってしまって。びっくりしちゃいますよねー」
「ううん大丈夫。それよりナナちゃんはどうして彼がゲイだと思ったの?」
不意にまりあが見せた真剣な瞳にナナは恐縮しながら答える。
「大学の時ですけど、……人生で一番好きになって付き合った人に、男しか好きになれない人間だからって振られたんです。その彼にまりあさんの彼氏さんが似てるような気がしたんで思わず聞いてしまいました。余計なことを言ってすいません! 忘れてください!」
がばっと頭を下げたナナは思い出をたぐりよせる。その人は大学の先輩で溺れるようにナナが愛した人だった。繊細さが滲み出る綺麗な所作も、目尻が優しくさがって形作られる儚い虹みたいな綺麗な笑顔も、いまだにナナの瞼の裏に克明に焼き付いている。その元彼の雰囲気とまりあの恋人が驚くほど似ていたのだ。
そうはいってもさすがに一言多すぎたとナナは猛省する。さげた頭を恐る恐るあげるとまりあは気を悪くした様子もみせず、ただ遠い目をしてどこかを見ていた。それから視線をナナに向けて首を振って微笑んだ。