第２２９話

「みんな大人で、個性的で」

「……腹に一物も二物も抱えているけどね」

　上茶谷の言葉にまりあはふふふと笑う。

「ダイゴさんとも坂口くんとも。一緒にいても素でいられるしそれでいてひとりの時みたいにダラダラもしないから。いい意味で緊張感もあるんですよね」

　まりあはそう言ってゆっくりとワイングラスを傾けた。やはり彼女もこの共同生活での不思議な心地良さを感じているのだ。上茶谷も黙って頷く。

「でもこれは……休憩時間みたいな時間(とき)だってわかってはいるんですけどね」

　坂口とも過ごす時間が増えて、彼女のなかで彼に対する感情も少しずつ変わってきているのだろう。上茶谷の心の内に、これでよかったのだという感覚が揺らぎ、どこか苦いものがまざりあう。彼はそれを無理やり攪拌するように口を開く。

「そうね。ずっとは続かないわね」

　上茶谷が静かにそう呟くとまりあはちょっと眉を下げて、さみしげな表情で微笑んだ。

「ダイゴさんはその……」

「……なに？」

　まりあはしばらく上茶谷の顔を見つめたあと、ぎこちなく微笑んで口を開いた。

「えーと、上島さんはお元気ですか？」

　取ってつけたような彼女の言葉に、上茶谷は思わず吹き出した。

「どうしてそこで蒼佑がでてくるの？」

　まりあは困ったように首を傾げて微笑んだ。

「……最近どうしていらっしゃるかなあと思いまして」