第159話
文字数 857文字
「あの、さっきは怖がらせたみたいで本当にすいませんでした」
笑いが収まった後坂口がまた頭をペコリと下げたから、まりあは首を振る。
「ううん。こっちこそあれくらいでびっくりしちゃうなんて。気にしないでね」
まりあが、いつもどおりの口調でそういうと、坂口がため息まじりに首を振った。
「いや……、あんな顔をした板野さんを見たの初めてで……。あの、もう一度リベンジさせてもらえませんか?」
「リベンジ?」
坂口が小さく頷いた。
「俺が触れたら怖いって思われたままなの、絶対イヤなので。上書きさせてほしいんです」
「上書き? 上書きって、どうするの?」
「握手してください」
すっと差しだされた手。けれどさきほどの感覚が蘇りそうでまりあは一瞬躊躇してしまう。坂口はそんな彼女を静かに見つめている。
「……もう怖がらせません。でも、やっぱりいやですか?」
耳を折って飼い主をじっと見つめてくる大型犬みたいな様子の坂口に、つい苦笑がこぼれてしまった。握手くらいどうってことない。まりあは微笑んだ。
「ううん、大丈夫。じゃあはい。仲直り」
そう言ってあえて明るい調子で手を差し出す。坂口は壊れ物でも触れるように、まりあの手のひらを握った。さきほど感じた不穏な感じはまるでなかった。伝わってくるのは温かい手のひらの感触。顔をあげるとまりあの様子をみていた坂口がほっとしたように笑った。
「仕事ではまだ、ネコ被って冷静ぶっていられるんですけど。感情が先走って好きな人を怖がらせるなんて、全然ダメですね俺」
「……坂口くん」
「未熟ですいません。でも板野さん、いや、まりあさんのことをもっとちゃんと知りたいって、心から思っています。だから怖いとか嫌だとか少しでも思ったら遠慮無くすぐ言ってください」
まりあは大きく瞳を見開いた。こんなふうに彼女の"怖さ"にすぐ気づいて真正面から切り込んできた男性はいままでいなかった。率直な言葉や、その手のひらの温もりから伝わってくるのは、誠意や真摯さ。それらがまりあのなかに流れ込んできて、こつりこつりと心を揺らす。
笑いが収まった後坂口がまた頭をペコリと下げたから、まりあは首を振る。
「ううん。こっちこそあれくらいでびっくりしちゃうなんて。気にしないでね」
まりあが、いつもどおりの口調でそういうと、坂口がため息まじりに首を振った。
「いや……、あんな顔をした板野さんを見たの初めてで……。あの、もう一度リベンジさせてもらえませんか?」
「リベンジ?」
坂口が小さく頷いた。
「俺が触れたら怖いって思われたままなの、絶対イヤなので。上書きさせてほしいんです」
「上書き? 上書きって、どうするの?」
「握手してください」
すっと差しだされた手。けれどさきほどの感覚が蘇りそうでまりあは一瞬躊躇してしまう。坂口はそんな彼女を静かに見つめている。
「……もう怖がらせません。でも、やっぱりいやですか?」
耳を折って飼い主をじっと見つめてくる大型犬みたいな様子の坂口に、つい苦笑がこぼれてしまった。握手くらいどうってことない。まりあは微笑んだ。
「ううん、大丈夫。じゃあはい。仲直り」
そう言ってあえて明るい調子で手を差し出す。坂口は壊れ物でも触れるように、まりあの手のひらを握った。さきほど感じた不穏な感じはまるでなかった。伝わってくるのは温かい手のひらの感触。顔をあげるとまりあの様子をみていた坂口がほっとしたように笑った。
「仕事ではまだ、ネコ被って冷静ぶっていられるんですけど。感情が先走って好きな人を怖がらせるなんて、全然ダメですね俺」
「……坂口くん」
「未熟ですいません。でも板野さん、いや、まりあさんのことをもっとちゃんと知りたいって、心から思っています。だから怖いとか嫌だとか少しでも思ったら遠慮無くすぐ言ってください」
まりあは大きく瞳を見開いた。こんなふうに彼女の"怖さ"にすぐ気づいて真正面から切り込んできた男性はいままでいなかった。率直な言葉や、その手のひらの温もりから伝わってくるのは、誠意や真摯さ。それらがまりあのなかに流れ込んできて、こつりこつりと心を揺らす。