第22話
文字数 843文字
「ダイゴさん、上島 様がいらっしゃいました。お願いします」
美容室ラリュールのバックヤードで遅い昼食であるサンドイッチを一袋、上茶谷が食べ終えた時だった。ドアが開きひょろりと背が高いアシスタントから声がかかった。壁にかかっている時計をみると十四時五十分。予約時間より十分早い。
「……もう来たの。ちょっと待たせといてくれる?」
「了解です」
二十歳そこそこのアシスタントは無表情のまま頷いてすぐ店に戻っていく。
「あのコ仕事はそつなくこなすけど、愛想がないのがもったいないのよね」
そう呟いて上茶谷は立ち上がる。部屋の隅にある洗面台にいって目の前にある鏡を眺めた。そこに映る目の下あたりに絆創膏を貼った顔を見て、軽くため息をつく。上茶谷の美意識からすると、かなりイケていないが仕方ない。隣の部屋に住む、ちんちくりんな娘のG騒動に巻き込まれてエライ目にあってしまったと歯を磨きながら思い出して苦笑する。
あのアパートに上茶谷は四年ほど住んでいるが、隣人とあそこまで話をしたのは初めてだった。これまで同じアパートの住人とは挨拶程度は交わしたものの、コミュニケーションはほとんど取ったことがない。少し話をしたりすると大抵、男女問わずじろじろと顔を見られたりする。慣れているとはいえあまり気分のいいものではない。
特に絡みつくような視線を投げてくるタイプの女は苦手だ。顔に張り付いたアメーバが足先まで這うホラーなイメージが脳内に広がって身震いしてしまう。客としてならまだ割り切れるが、プライベートではできるだけ関わりたくなかった。
上茶谷は自分という人間が、世間一般の『普通』と思われるカテゴリーからはみ出ていることは百も承知だ。いい意味でも悪い意味でも目立ってしまう。街を歩いていて振り返られることはしょっちゅうだし、客にストーキングされたことも何度もある。だからできるだけ静かに穏便に暮らしていきたいのだ。その点、あのまりあという娘はあっさりしていて嫌な感じがまるでしなかったと上茶谷は思い返す。
美容室ラリュールのバックヤードで遅い昼食であるサンドイッチを一袋、上茶谷が食べ終えた時だった。ドアが開きひょろりと背が高いアシスタントから声がかかった。壁にかかっている時計をみると十四時五十分。予約時間より十分早い。
「……もう来たの。ちょっと待たせといてくれる?」
「了解です」
二十歳そこそこのアシスタントは無表情のまま頷いてすぐ店に戻っていく。
「あのコ仕事はそつなくこなすけど、愛想がないのがもったいないのよね」
そう呟いて上茶谷は立ち上がる。部屋の隅にある洗面台にいって目の前にある鏡を眺めた。そこに映る目の下あたりに絆創膏を貼った顔を見て、軽くため息をつく。上茶谷の美意識からすると、かなりイケていないが仕方ない。隣の部屋に住む、ちんちくりんな娘のG騒動に巻き込まれてエライ目にあってしまったと歯を磨きながら思い出して苦笑する。
あのアパートに上茶谷は四年ほど住んでいるが、隣人とあそこまで話をしたのは初めてだった。これまで同じアパートの住人とは挨拶程度は交わしたものの、コミュニケーションはほとんど取ったことがない。少し話をしたりすると大抵、男女問わずじろじろと顔を見られたりする。慣れているとはいえあまり気分のいいものではない。
特に絡みつくような視線を投げてくるタイプの女は苦手だ。顔に張り付いたアメーバが足先まで這うホラーなイメージが脳内に広がって身震いしてしまう。客としてならまだ割り切れるが、プライベートではできるだけ関わりたくなかった。
上茶谷は自分という人間が、世間一般の『普通』と思われるカテゴリーからはみ出ていることは百も承知だ。いい意味でも悪い意味でも目立ってしまう。街を歩いていて振り返られることはしょっちゅうだし、客にストーキングされたことも何度もある。だからできるだけ静かに穏便に暮らしていきたいのだ。その点、あのまりあという娘はあっさりしていて嫌な感じがまるでしなかったと上茶谷は思い返す。