第９９話

「気に入らないなあ。二人、やっぱり仲良しだよね？」

　まりあと上茶谷が余計な言葉を交わさなくても意思疎通している様子をみて、上島が拗ねたように言って笑う。

「……そりゃ仲良しよ。お隣さんだしね」

　上茶谷が一瞬だけ間をおいてそう答えると、まりあの背後にいた坂口が、えっと低い声で呟いたから視線が彼に集まった。

「板野さんが前に言ってた、おとなりの美人の美容師さんてもしかして……」

　まりあがあれ？　っと言ってから躊躇いがちに口を開いた。

「あ、ダイゴさんのこと、坂口くんにも話してたね。そうなの。お隣のカミ、カミチャタニダイゴさん」

　まりあが相変わらず苗字を噛んでいるから上茶谷は笑いそうになる。一方の坂口は一瞬だけ困惑するような表情を見せたあとゆっくりとその口元を緩めた。

「たしかに美人さんですね……。俺、板野さんの会社の同僚で坂口勇斗(さかぐちゆうと)といいます」

　そう言ってまりあの横に立つと上茶谷を強い瞳で見つめてきた。

(こういう可愛い顔をして生意気なタイプ、基本的には嫌いじゃないけどこのコは妙にイラッとくるわね)

　上茶谷もあえてクールに微笑んだ。

「どうぞよろしく。上茶谷です」

「なにこの空気。張り詰めてない？」

　上島がからかうように間にはいってきたから上茶谷が睨む。

「変なこと言わないで。蒼佑はもう帰りなさいよ」

「扱いが雑だよなあ。ま、いいけど」

　上島は大袈裟に吐息をついてみせたあと、上茶谷の肩にぽんと手を置いて耳元に顔を寄せて呟いた。

「さっき話したこと考えておいて。また連絡する」

　上茶谷が視線を向けると上島はすっと微笑んでみせる。それから軽く手をあげて車の方に歩いていった。上茶谷がその後ろ姿をしばらく見つめ、ゆっくりため息をつく。顔をあげるとまりあと坂口が息を潜めるようにして、上茶谷を見ていた。何？　と視線で問いかけ苦笑する。