第188話
文字数 850文字
上茶谷ではまりあが期待する愛し方は出来ない。さらに二人の距離が近くなっていったら、おの温かくて優しい関係はいつか破綻してしまうだろう。ほんの少しであってもまりあとの関係を保っていける可能性があるならば、彼女から距離を置くのが正解なのだ。たとえ上茶谷が傍を離れたとしても、坂口がまりあを支えていくはずだ。上茶谷は自らにそう言い聞かせてみるけれど、なかなか割り切ることができない。
あんなに懐いてくる愛おしい存在を他の人間に委ね、逃げるのか。もう一人の自分が何度もそう囁いてくる。さらにはまりあの泣きそうな顔が幾度も浮かび上がってきた。上茶谷はそれらを振り切るように何度も寝返りを打った。そんな事を考えていたら眠れるわけが無い。朝方に軽い眠気がようやく滲み出しウトウトしたものの、嫌な夢をみて、そこから無理やり意識を引き剥がすように目を開けたらまだ朝の七時だった。
ラリュールに出勤する日を今は減らしていて、今日は午後から店に出る予定だからまだ起きなくても問題はない。けれどこのまま寝ている気分にもなれなかった。上茶谷はひとつため息をついてベッドから起き上がり寝室から廊下に出た。その時だった。玄関の外、古びたドアの向こうから鍵をかしゃりとかける音が響いてきた。まりあだ。
「あ……」
上茶谷は思わずそう呟いて無意識のうちに、玄関へと早足で向かっていた。ドアノブに手をかけたところで初めて自分の行動に気づいた。
(何やってるの。今、まりあと会っても話すことなんてないのに……)
上茶谷はそう思いながらもそのまま動けなくなる。外にはまだ、まりあの気配があった。バッグに鍵を仕舞っているらしい音が聞こえる。薄いドア一枚で隔てられているだけなのにまりあの存在が遠くに感じられ、上茶谷はドアノブを握る手に力を込めてしまう。いったん何も聞こえなくなりほんの少し間があいたあと、足音が響いてきた。
コツコツコツ
ヒールの音が階段を降りていき遠ざかっていく。やはり上茶谷は動くことが出来ない。そして何も聞こえなくなった。
あんなに懐いてくる愛おしい存在を他の人間に委ね、逃げるのか。もう一人の自分が何度もそう囁いてくる。さらにはまりあの泣きそうな顔が幾度も浮かび上がってきた。上茶谷はそれらを振り切るように何度も寝返りを打った。そんな事を考えていたら眠れるわけが無い。朝方に軽い眠気がようやく滲み出しウトウトしたものの、嫌な夢をみて、そこから無理やり意識を引き剥がすように目を開けたらまだ朝の七時だった。
ラリュールに出勤する日を今は減らしていて、今日は午後から店に出る予定だからまだ起きなくても問題はない。けれどこのまま寝ている気分にもなれなかった。上茶谷はひとつため息をついてベッドから起き上がり寝室から廊下に出た。その時だった。玄関の外、古びたドアの向こうから鍵をかしゃりとかける音が響いてきた。まりあだ。
「あ……」
上茶谷は思わずそう呟いて無意識のうちに、玄関へと早足で向かっていた。ドアノブに手をかけたところで初めて自分の行動に気づいた。
(何やってるの。今、まりあと会っても話すことなんてないのに……)
上茶谷はそう思いながらもそのまま動けなくなる。外にはまだ、まりあの気配があった。バッグに鍵を仕舞っているらしい音が聞こえる。薄いドア一枚で隔てられているだけなのにまりあの存在が遠くに感じられ、上茶谷はドアノブを握る手に力を込めてしまう。いったん何も聞こえなくなりほんの少し間があいたあと、足音が響いてきた。
コツコツコツ
ヒールの音が階段を降りていき遠ざかっていく。やはり上茶谷は動くことが出来ない。そして何も聞こえなくなった。