第78話
文字数 640文字
「こういう不測の事態でも臨機応変に対応して、更にはビジネスチャンスを見出して経営拡大するとか。そういう気合いも才能もないんだなって。むしろ経営よりも現場で仕事したいって実感しちゃったのよ。今は私がヘアメイクするのなんてたまにでしょ」
リカコは何かを悟った人特有の静かな目をしてそう言った。随分まえからその事を考えていて、そしてもう決めてしまったのだと上茶谷は感じた。
「それでカミちゃんに相談なの」
リカコはタバコを灰皿に押し付け火を消すと、真っ直ぐに上茶谷をみた。
「上島くんが、店 の経営をやりたいっていってる」
「……上島さんが?」
上茶谷が呻くように呟くとリカコは静かにうなづいた。
「前から打診されていてね。彼、経営の多角化を考えているみたいで。美容業界進出の足掛かりにしたいんだって」
リカコはそういうとそっと背もたれから身体を起こして上茶谷をじっと見た。
「店の経営権をかなり有利な条件で買い受けてくれるかわりに、条件を出してきたのよ」
嫌な予感がして上茶谷は思わず眉を顰 めた。リカコはそんな上茶谷の顔をみて苦笑するとうなづく。
「カミちゃんと共同経営する形にしたいんだって」
「は?」
上茶谷は思わず脱力し背もたれにどさりと身体を預けてしまう。
「本業の音楽配信の勢いを考えても、上島くんが美容業界に参入するメリットってそれほど大きくないと思うのよね。美容院経営なんて、上島くんからみたら
リカコは何かを悟った人特有の静かな目をしてそう言った。随分まえからその事を考えていて、そしてもう決めてしまったのだと上茶谷は感じた。
「それでカミちゃんに相談なの」
リカコはタバコを灰皿に押し付け火を消すと、真っ直ぐに上茶谷をみた。
「上島くんが、
「……上島さんが?」
上茶谷が呻くように呟くとリカコは静かにうなづいた。
「前から打診されていてね。彼、経営の多角化を考えているみたいで。美容業界進出の足掛かりにしたいんだって」
リカコはそういうとそっと背もたれから身体を起こして上茶谷をじっと見た。
「店の経営権をかなり有利な条件で買い受けてくれるかわりに、条件を出してきたのよ」
嫌な予感がして上茶谷は思わず眉を
「カミちゃんと共同経営する形にしたいんだって」
「は?」
上茶谷は思わず脱力し背もたれにどさりと身体を預けてしまう。
「本業の音楽配信の勢いを考えても、上島くんが美容業界に参入するメリットってそれほど大きくないと思うのよね。美容院経営なんて、上島くんからみたら
儲からない仕事
のはずだから。……彼が美容業界でやりたいと思うのもカミちゃんありき、なんだよね」